木村拓哉主演の『グランメゾン東京』が面白い。抜群にキムタクらしいドラマだと思う。
手に汗を握り、テレビの前に釘付けになり、「今週のキムタク」を待ち続けた1990〜2000年代を彷彿とさせる。
「キムタクは何を演じてもキムタク」とはよく言われるが、彼はそれでいい。
生まれながらのスターなのだから、「ありのままのキムタク」を演じてくれたら、それで僕たちは楽しいのだ。
『グランメゾン東京』の主人公・尾花夏樹はまさに、これまでのドラマで見た「キムタク像」そのものであった。
どこまでもストイックに真摯に料理に向き合うその姿は、ストイックにアイスホッケーに向き合っていた『プライド』の里中ハルにそっくりだ。
確固とした自分を持ち、他人に流されず、多少破天荒でも我が道を行くその姿は『HERO』の久利生公平に似ているかもしれない。
『グランメゾン東京』の尾花夏樹は、これまでキムタクが演じてきた「ど真ん中のヒーロー像」を裏切らない。
自分にも他人にも厳しく、高い水準の仕事を要求する尾花夏樹に対し、周りは恐れを抱きつつも憧れずにはいられない。
僕たちが尾花夏樹に惹かれるように、仲間たちも尾花に惹き込まれていく。
その様子にまた感情移入してしまう。
「ああ、やっぱりキムタクかっこいいな」
と。
尾花の周りを彩る仲間たちもいい味を出している。
自分の意見は曲げず、人の意見は聞かず、天上天下唯我独尊と言わんばかりだった尾花もパートナーである早見倫子に影響を受けて、少しずつ、
「仲間とアイデアを出し合ったほうが美味しい料理が作れる」
ということに気付き始める。
この尾花が微妙に、そして絶妙に変化していく部分も『グランメゾン東京』の面白さの一つだといえる。
そして、このドラマを通じて見える「美味しい料理を作るためのシェフの努力」にもまた感心してしまう。
コース料理を開発するために、納得いく素材を探しに行き、何度も何度も試作して、その素材が最高に活きる組み合わせを考え、最高のレシピを作り、最高の調理を施す。
【うまいものさえ作れれば努力は関係ない。だけど、それができないから世界中の料理人は必死になって料理のことを考える。】
— 本橋健一郎(moto-san)レストランプロデューサー/ソムリエ (@motohashiwine) November 11, 2019
【作るのにどれだけ努力したかなんて客には関係ない。このモンブランは客を喜ばせた、それがすべて。】#グランメゾン東京 pic.twitter.com/pLz33yTEl3
そんな“シェフの本気”が存分に表現されていて、仕事人として憧れを抱かずにはいられない。
やっぱり日曜は『グランメゾン東京』が楽しみだ。
また「東京に三つ星レストランを作る」という目標の元に仲間たちが集まり、新しいレストランを作り上げていく様子にはスタートアップの経営に通じるようなスピード感があって、「レストラン作り」の観点で見ても面白い。
小栗旬と石原さとみの『リッチマンプアウーマン』が好きだった人にも響くだろう。
『リッチマンプアウーマン』で主役のカリスマ経営者が相棒に裏切られたように、『グランメゾン東京』でも似たような裏切り劇が起こるかもしれない。視聴者としては正直辛い。
ちなみに料理は12年三つ星を取り続けたフレンチレストラン『カンテサンス』シェフの岸田周三氏である。
日本随一のシェフが監修しているだけあって、『グランメゾン東京』で出てくるフレンチは「飯テロ」と言われるほどの破壊力がある。このドラマを見てフレンチレストランに行きたくなった人は数え切れないほどいるだろう。
キムタクの役作りへの情熱は岸田周三氏が「この人、料理人になるつもりなのかな」と思うほど熱心だったそうで、その情熱が『グランメゾン東京』の迫力につながっているのかもしれない。
5分でわかる『グランメゾン東京』のあらすじ
これから『グランメゾン東京』を見てみようとしている人のためにざっくりとストーリーを整理しておく。
尾花夏樹は本場フランスの二つ星レストラン「エスフォフィユ」のオーナーシェフだった。
「三つ星に最も近い店」とも言われていた「エスフォフィユ」だが、日仏首脳会談の食事会でアレルギー食材を混入させる事故を起こしてしまう。
フランス官僚は総料理長である尾花を詰問した。
「なんでこんな事件を起こしたんだ」
「お前の仲間に怪しい奴がいるんじゃないのか」
はじめは冷静に話していた尾花だったが、仲間を疑われたことだけは許すことができず、官僚を殴ってしまう。
それが尾花の転落のきっかけだった。
大事件を起こしてしまった尾花をどのレストランも相手にせず、借金取りに追われる日々を過ごし、3年が経った。
どん底にいた尾花は偶然、フランスの三つ星レストラン「ランブロワジー」の面接を受けていた早見倫子に出会う。
必死の形相で面接に挑み、なんとか試験を受けることができた倫子。
そんな倫子の様子を窓から見ていた尾花は、勝手に厨房に侵入し、料理を始める。
「以前、ここで働いていた。店のコンセプトもシェフの好みもわかる」
と言い、勝手にソースを作った。
「合格したかったらこれを使え」
そう言い残して逃げ去った尾花。
しかし倫子はプライドもあってか、尾花のソースは使わずにランブロワジーの面接に落とされてしまう。
「料理に独創性が足りない。でもソースだけは良い」
とランブロワジーのシェフに評価された。
悔しい。
自分が必死に努力して、必死の想いで開発したメニューをぶつけたのに、尾花夏樹が5分で作ったソースに負けた。
悔しい。
頑張っても頑張っても越えられない才能の壁。
倫子は尾花と比較され、残酷なまでの実力の差をはっきりと感じ取ってしまう。
自分は三つ星は取れないんだと。
自分の実力では夢は叶わないんだと悟ってしまう。
倫子は尾花夏樹を探し、自ら買ってきた食材を渡し、料理してもらった。
その実力をもう一度確かめるために。
「美味しい」
「本当に美味しい」
涙を流して尾花の料理を食べる倫子。
朝からリピ👨🏼🍳
— yuka (@SmileTky) October 20, 2019
倫子さんの美味しい……の言葉に
昔を思い出す
この目と繊細な表情
スーッと 人物の心に 寄り添える
受け取れる
この細やかな表現力が 好き‼️☺️#グランメゾン東京 pic.twitter.com/QwyENpCSvb
その姿を見て、尾花は倫子の一つの才能に気付いた。
倫子は料理の実力自体は大したことはないが、口にした食材の素材や調理法を言い当てられるほどの「神の舌」を持っていたのだ。
尾花の料理を食べて夢を諦めようとした倫子に、尾花は提案する。
「レストランやらない?俺と一緒に」
「2人で一緒に世界一のグランメゾンを作るってのはどう?」
「俺が必ずあんたに星を取らせてやるよ」
......めちゃくちゃカッコよくない?
ここまでが第一話の中盤。
後半ではフランスで一緒にレストランを経営していた相棒・京野陸太郎と再開。
京野は日本に戻り、レストラン「gaku」のギャルソン(ウェイター)として働いていたのだ。
京野はお客様やスタッフへの気遣いが抜群で、尾花が最も信頼していたプロフェッショナルである。
「三つ星レストランを作るなら京野は絶対に必要だ」
と頑なに京野にこだわり、京野を引き込もうと口説きに回る。
しかし「エスコフィユ」での事件もあり、京野と尾花の溝はなかなか埋まらない。
エスコフィユで抱えた京野の借金を肩代わりしてくれたレストラン「gaku」のオーナーへの恩もある。
「gaku」のオーナーの拝金主義に違和感を覚えつつも、尾花との冒険には踏み出せない。
そんな京野の元を倫子が訪れ、力強く宣言する。
「うちのレストランでは京野さんが自信を持ってお客様にお出しできる料理だけを作ります」
そして倫子が京野の自宅を担保に借金を肩代わりまでして口説き落とし、仲間に引き込む。
目黒のフレンチ『グランメゾン東京』の始まりである。
初見で気づかなかったけど「お客様と同じ空間にいることを感じて心からもてなしましょう」という倫子の言葉のあと尾花天を仰いでるんだよね…美味しい料理を食べたあとと同じ、尾花の心を響かせたんだね #グランメゾン東京 pic.twitter.com/v3N2qvSJH5
— ぷ介 (@pupu_suke) November 13, 2019
そこからはレストランの資金集めのために奔走し、銀行の融資担当を納得させるためのメニューを考え、ジビエ料理のコンクールに応募して、メインとなる肉料理を開発した。
変わり始めた尾花と、そんな尾花に触発されて動き出す仲間たち。
歯車が噛み合い始め、レストラン作りが加速し始めたとき、京野はふとつぶやく。
「最高のチームになるかもしれないな」
チームが出来上がっていく過程も『グランメゾン東京』の醍醐味だ。
プレオープンの日には世界的に有名な料理愛好家が訪れ、グランメゾン東京の料理を評価した。
詳細なあらすじはTBSのサイトを見てほしいが、5分でざっくりとわかるあらすじは上記のようなものである。
2019年11月17日放送の第5話はちょうど、「グランメゾン東京」がオープンを迎えるところとなっている。
上でサラッと書いた「世界的に有名な料理愛好家」が、自身の雑誌に「暴力シェフ尾花夏樹」のことを書いてしまったため、オープン早々に逆風が吹きそうな予感がしている。
『グランメゾン東京』は魅力的な登場人物が多い。
尾花の料理に対する真摯な姿、ぶれない態度もカッコいいが、ライバルである二つ星レストラン「gaku」の丹後学や、露骨な悪人として登場する江藤不三男もキャラが立っている。
『半沢直樹』的な「最後に正義が勝つ」、いわゆる勧善懲悪ストーリーに胸がすく思いをすることだろう。
『グランメゾン東京』はヒットする要素が詰め込まれた、ヒットするべくして生まれたドラマとも言えるだろう。
日本人の感性に合っている。
また日本人が愛した木村拓哉像にも合っている。
#グランメゾン東京
— ぴーちゃん (@rosepin27899031) October 28, 2019
妙にこのドラマに惹かれる理由を考えたら…
尾花は
沢山の人に誤解され叩かれても
何も弁明せず
ただひたすら仕事を真摯にやり続け
どうしても惹かれてしまう魅力=
カリスマ性を持っている
という設定がご本人と重なり役に輝きを持たせてるからだと感じる。#木村拓哉 pic.twitter.com/I54JUKvuFJ
中年同士の恋愛だけはやめてほしい
ここまで絶賛してきた『グランメゾン東京』だが、いささか不安な面もある。
もはや「中年男性」となってしまった木村拓哉(47)が演じる尾花夏樹と、誰がどう見てもおばさんである鈴木京香(51)が演じる早見倫子が恋愛を始めてしまうリスクだ。
それだけは本当にやめてほしい。
中年同士の恋愛なんて見たくない。
どんなにキムタクがカッコよくても、おじさんとおばさんがキスしているシーンなんて見たくない。
もう恋愛する歳ではない。ひたむきに、まっすぐに、三つ星の夢を追ってほしい。
絶対に恋愛するな!
なんだか沢村一樹(52)が演じる京野が早見倫子に恋をしているような描写があるが、お前、早まるんじゃない。
おっさんの恋はやめてくれ。ビジネスパートナーとして、しっかりと料理とお客さんに向き合ってほしい。
おじさんとおばさんが見つめ合うような展開だけは勘弁してほしい。
魅力的なキャラクターを作る条件
最後に余談のうんちくを語りたい。
『映画を書くためにあなたがしなくてはならないこと』の72ページに「魅力的なよい登場人物を作るための4つの要素」が説明されている。
- 登場人物は強力ではっきりした“ドラマ上の欲求”をもっていること
- その人独自の考え方、ものの見方をもっていること
- あるものに対する態度を体現していること
- 何かしらの変化や変身を遂げること
この4つの要素によって「魅力的な良いキャラクター」を作れるのだそうだ。
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では4つの要素に従って尾花夏樹を見てみよう。
「強力ではっきりした“ドラマ上の欲求”があるか」については、「東京で三つ星を取る」という明確な夢がある。
「その人独自の考え方、ものの見方をもっていること」については料理に対してはどこまでも妥協することなく、誰よりも厳しく味を追求し続ける、という尾花独自の哲学がある。
「あるものに対する態度を体現していること」についても、人に対しては不器用で厳しく、言葉遣いは悪いが、優しくて仲間思いな面もある、という尾花の魅力的な人間性が描かれている。
「何かしらの変化や変身を遂げること」についても、フランスでは誰の意見も聞かなかった尾花が日本に戻ってからは仲間の意見を取り入れ、人と協力して良いメニューを作り上げていく様子が描かれている。
こう見ると、尾花夏樹はド定番の「魅力的な人物」とも言えるだろう。
キャラの魅力とキムタクの魅力がマッチして、『グランメゾン東京』を面白くしている。
最後に繰り返すが、そんな魅力ある尾花夏樹を中年の恋愛に走らせるのだけはやめてほしい。
本当にお願いします。
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