『学力の経済学』に書かれていた「子どもの学力を上げる方法」まとめ



日本の教育では「私は私のやり方で全員一流大学に合格した」みたいな、「個人の体験談」が重んじられがちです。

子どもが全員東大医学部に合格した母親や、ビリから慶應大学に合格したギャル、手の甲に安全ピンを刺し栄養ドリンクを一気飲みしながら勉強して国学院大学に合格した代ゼミの吉野先生など、数え上げればキリがないくらい色々な人が「自分の経験」に基づいて「学力を高める方法」について語っています。

政策決定の場でも「私の経験では〜」と自らの体験談を元に議論を展開していったり、権威がある人の発言を万人に正しいものとして議論を進めるような風潮があったのかもしれません。


一方で、米国では「エビデンスに基づいた教育を行う」という考え方が主流のようです。

2001年にブッシュ政権下で成立した「落ちこぼれ防止法」の中で、「科学的根拠に基づく」というフレーズが111回も使われていました。

「落ちこぼれ防止法」がターニングポイントとなり、米国では教育政策には裏付けとなる「科学的根拠」を求める姿勢が明確になりました。

自治体や教育委員会が国の予算をつけてもらうためには、自分たちの行っている教育政策にどれくらいの効果があるのかについて、科学的根拠を示さなければならなくなったのです。


『学力の経済学』では、誰かの主観に基づいた教育論を盲信するのではなく、きちんと実験を行って、効果を検証するようにと強調しています。

「誰かの成功体験や主観に基づく逸話ではなく、科学的根拠に基づいて教育を設計しよう」

ということです。

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『学力の経済学』では実験の方法や意義、その過程が詳細に説明されています。

読み物としても十分に面白いのですが、この記事では『学力の経済学』で紹介されていた

「実験によって科学的に証明された、子どもの学力向上に効果がある教育方法」

をピックアップして紹介していきます。

実験の詳細や背景にある理由を知りたい方は『学力の経済学』を読んでみてください。

「学力」の経済学

「学力」の経済学

  • 作者:中室 牧子
  • 出版社/メーカー: ディスカヴァー・トゥエンティワン
  • 発売日: 2015/06/18
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)

因果関係を証明するために行う「ランダム化比較試験」については以下の記事でざっくり説明しています。

oreno-yuigon.hatenablog.com

効果的なご褒美のあげ方

【テーマ】
ご褒美はインプットに対して与えるのがいいか、アウトプットに対して与えるのがいいか。

「本を読む」「宿題を終える」「学校にちゃんと出席する」などの行動(インプット)に対してご褒美をあげる場合と、「テストの成績が上がった結果」に対してご褒美をあげる場合でどちらが効果が高いかを検証する。


【結果】
学力テストの結果向上に効果があったのは、「インプットにご褒美を与えられた子ども」だった。

特に「本を読むこと」にご褒美を与えられた子どもたちの学力の上昇は顕著だった。

一方で、「テストでよい点が取れた」などのアウトプットにご褒美を与えられた子どもの学力は全く改善しなかった。
アウトプットにご褒美を与える場合には、どうすれば成績を上げられるのかという方法を教え、導いてくれる人が必要である。

ご褒美は子どものやる気を失わせるか

【テーマ】
子どもにご褒美をあげることによって「一生懸命勉強するのが楽しい」という子どもたちの気持ち(内的インセンティブ)が失われてしまわないか検証する。


【結果】
ご褒美が子どもの「一生懸命勉強するのが楽しい」という気持ちを失わせていない。
積極的にご褒美あげても大丈夫だとわかった。

ご褒美はいつあげるのがいいか

【テーマ】
「1時間勉強したら、勉強が終わった後にお小遣いをあげるよ」
「テストでよい点を取ったら、お誕生日にお小遣いをあげるよ」
のどちらが効果的か?


【結果】
「1時間勉強したら、勉強が終わった後にお小遣いをあげるよ」の方が効果が高い。


子どもを褒めて育てるべきか

【テーマ】
褒め育てをすると自尊心が高まると言われているが、自尊心が高まった子どもの学力は高くなるだろうか?


【結果】
自尊心が高まれば子どもたちを社会的なリスクから遠ざけることができるという有力な科学的根拠は示されなかった。
自尊心が学力につながっているのではなく、学力が高いという「原因」が、自尊心が高いという「結果」をもたらしている。

「お前はすごいぞ!やればできる!」みたいに、教師が学生の自尊心を高めるような介入をしても、学生たちの成績を決して良くすることはない。
むやみやたらに子どもをほめると実力の伴わないナルシストを育てることになりかねない。

「頭が良いね」「よく頑張ったね」のどちらが効果的か

子どもの元々の能力(頭の良さ)をほめると子どもたちは意欲を失い、成績が低下することがわかった。
元々の能力を褒められた子どもが成績を落としたのに対し、努力を褒められた子どもたちは成績を伸ばした。

能力を褒めることは、子どものやる気を蝕むことがわかった。

テレビゲームの悪影響

テレビやゲームそのものが子どもたちにもたらす負の因果効果は私たちが考えているほどには大きくない。
ゲームの中で暴力的な行為が行われていたとしても、それを学校や近所でやってやろうと考えるほど、子どもは愚かではない。

テレビをやめさせても学力の向上に効果がないのは、テレビをやめても他のことで時間を潰してしまうからだ。

1時間テレビやゲームをやめさせたとしても、男子は1.86分、女子は2.70分だけ学習時間が増加するに過ぎない。
単位が「分」であることに注目。
テレビを制限してもスマホやインターネットに時間を費やすため、子どもの学習時間は増えないのだ。

ただしこの実験結果は、テレビを無制限に観せても問題ない、というわけではない。
テレビ視聴やゲーム使用の時間が長すぎると、子どもの発達や学習への悪影響が飛躍的に大きくなる。

本を読めば賢くなるのか

本を読んでも賢くなるとは限らないが、読解力の向上に効果がある。

研究によると「年齢に応じて適切な読み物を提供し、教師が読書をサポートした結果、学生の読書スキルが向上した」という。

子どもの学習時間を増やすにはどうしたらいいか

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  • 勉強をしたか確認している
  • 勉強を横について見ている
  • 勉強する時間を決めて守らせている
  • 勉強するように言っている

のうち、最も効果が高いのは「勉強する時間を決めて守らせている」だった。
次いで「確認している」「横で見ている」に効果があった。

お手軽なやり方である「勉強するように言っている」は効果がないか、逆効果になることがわかった。
親が自分の時間を何らかの形で犠牲にせざるを得ないような手間暇かかる関わりの方が効果が高い。

また、子どもが男の子なら父親が、女の子なら母親が関わるとよいこともわかった。


友人の影響

  • 元々学力が高かった子どもが学力の高い友だちと一緒に過ごすと、学力にプラスの影響がある
  • 中間層や元々学力の低い子どもたちは、学力の高い優秀な友人からプラスの影響を受けない
  • 問題児の存在は学級全体の学力に負の因果効果を与える
  • 子どもや若者は、飲酒・喫煙・暴力行為・ドラッグ・カンニングなどの反社会的な行為について、友人からの影響を受けやすい

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子どもの教育に時間やお金をかけるとしたらいつがいいのか

教育が子どもの将来の収入に与える影響を調査した結果、もっとも収益率が高いのは子どもが小学校に入学する前の就学前教育(幼児教育)であることがわかった。
教育への投資の費用対効果は、子どもの年齢が小さいうちほど高い。
人的資本への投資(教育への投資)はとにかく子どもが小さいうちに行うべきである。

幼児教育の何が良いのか

幼児教育によってIQが向上した子どもとそうでない子供のIQは、8歳前後で差がなくなってしまう。
しかしながら、意欲や忍耐力、自制心や創造性などの「非認知能力」が改善され、これらの能力の改善は長期にわたって効果が持続する。


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