【感想】『二月の勝者』で描かれる中学受験の様子がすごかった



「自分は天才」とでも思ってるのか?

前哨戦である一月地方入試で『灘』に合格したから?

『ラ・サール』が
『渋幕』が受かったから?

カン違いも甚だしい。

君達が合格できたのは、

父親の「経済力」

そして、

母親の「狂気」


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『二月の勝者』1巻より


衝撃的なセリフですよね。

中学受験の成功は、父親の経済力と母親の狂気。

真偽は定かではないですが、開成中学の校長の言葉が元ネタになっているのだとか。

「おまえらが合格できたのは、一に母親の狂気、二に父親の経済力、三におまえらの力。だから調子にのるな」


中学受験の門はとても狭いと言われています。
2017年に『下剋上受験』という中学受験のドラマが流行りましたが、あのドラマでも主人公の女の子は第一志望の中学には合格できませんでした。

それもそのはず。

中学受験では7割の生徒が第一志望に受からないのだから。


全国の小学6年生の数はだいたい110万人です。
そのうち、東京都の小学6年生が10万人。

都内で中学受験をする児童は約2万5千人。

都内の小学生の4人に1人が中学受験をしているそうです。

東大合格者を多数排出する「御三家」は男子が開成・麻布・武蔵。
女子が桜蔭・女子学院・雙葉(ふたば)。

御三家と同等クラス&準御三家クラス&トップ大学付属校合わせて約20校と言われています。

トップ校に入れるのが受験生の1割。

これらのトップ校を狙って、親は子どもを

  • SAPIX
  • 日能研
  • 四谷大塚
  • 早稲田アカデミー

などの塾に通わせます。

小学3年の12月の終わりに入塾試験を受け、突破しなければ塾に入ることすらできません。

塾では成績順にクラス分けされ、「みんな平等で横並び」みたいな世の中の風潮など露知らず、過酷な環境でライバルと競争し続けます。

『二月の勝者』のストーリー

『二月の勝者』では中学受験のテクニックよりも、中学受験の仕組みや受験期の辛さを乗り切る小学生の心の機微にスポットが当てられています。

『二月の勝者』を中学受験版『ドラゴン桜』という人もいますが、『二月の勝者』では親のサポートの話や今どきの小学生のリアルな様子、そして中学受験を目指す家庭でどんなことが起こるのかが描かれており、自立した高校生を描く『ドラゴン桜』とは毛色が異なります。

作者の高瀬志帆さんがお子様の中学受験をサポートした経験がマンガ内に活きており、親世代が中学受験を追体験するためのマンガともいえるでしょう。


特に塾の先生と親の会話がリアルです。

中学受験に理解がない父親がいました。
父親は

「子どもは勉強なんてしないでサッカーをやるべきだ!
プロサッカー選手になるんだ」

と言います。
そんな父の様子を見て母親は困った顔。

そこでカリスマ塾講師、黒木が語ったのは、

「凡人こそ中学受験をするべき」

という話でした。

全国のサッカー競技人口は高校生・大学生・Jユース所属の最高学年合わせて約5万8千人。

日本で毎年プロサッカー選手になるのはJ1とJ2、J3合わせて約120人。

よって、プロサッカー選手になれる確率は約0.21%


一方、中学受験。
首都圏一都三県受験者数およそ5万2千。

最難関 東京男女御三家 募集定員1,340人。
御三家に受かる可能性は2.58%

「憧れの難関校」くらいまで入れると、10%弱。

スポーツや芸術・音楽など、才能が物を言う分野は本当に厳しい。

まだ、勉強のほうが努力のリターンが得やすいです、と。

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『二月の勝者』1巻より


このように、親と講師のやり取りや、子どもと親の関係に焦点を当てて描かれている場面が多い『二月の勝者』は

「受験を通じた人間ドラマ」

ともいえるでしょう。

「受験を突破するためのテクニック」の部分に比重が置かれていた『ドラゴン桜』とはまた別の楽しみ方ができます。

『ドラゴン桜』が大学受験生のための本だとしたら、『二月の勝者』を読むべきは親世代です。
特に関東圏に住む親世代には響くかもしれません。

田舎の親世代の方にとっても「東京で受験している家庭の様子」をなんとなく把握するのに役に立ちそうです。

二月の勝者 ー絶対合格の教室ー (1) (ビッグコミックス)

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中学受験にかかる費用

中学受験の狭き門を突破するためには親のサポートは欠かせません。

『二月の勝者』の主人公、黒木蔵人曰く、

「6年生の生徒が塾に落とす金額は150万円」

「フェニックス生(おそらくSAPIXがモデル)なら200万円」

だそうです。

中学受験を支える親は早めに蓄財しないと、塾で満足のいく講習を受けさせることすらできません。

老後に2000万貯める貯めないで騒いでいる大人が大勢いる一方で、子どもの受験に200万を投入して応援する親もいる、というのは格差の象徴にも見えます。

ちなみに『二月の勝者』では「150万」と言われていますが、副読本の『中学受験をしようと思ったら読むマンガ』では、

「一般的な大手塾では夏期講習、土日の特訓も含めてだいたい4年生で60万円、5年生で80万円、6年生では100万円かかります。春期講習や模試も含めると130万円に上ることもあります」

と述べられています。

学校に支払う受験料は1校3万〜3万5千円。
だいたい4〜5校受けるので、受験だけで12〜18万円がかかります。

受かれば入学金が20〜40万円。

「平成31年度 都内私立中学校の学費の状況」によると、中学に入った後の授業料の平均は473,467円。
初年度納付金の平均は959,770円となっていたそうです。


ここまで見ると、都内の私立中学受験はもはや貴族の戯れとも言えるレベルでお金がかかることがわかります。庶民が気軽な気持ちで参戦すると、軍資金不足で爆死してしまうかもしれません。

兄弟がいる家庭だとなおさらでしょう。
子どもを受験させるなら、中学受験の選択肢を与えたいなら、受験が始まるずっと前から教育資金を計画的に貯めておく必要があることがわかります。

中学受験はどうやら、子どもの根性と運、そして親の狂気、経済力の総力戦になるみたいです。

中学受験をしようかなと思ったら読むマンガ 新装版 (日経DUALの本)

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『中学受験をしようと思ったら読むマンガ』は『二月の勝者』のストーリーを待つことなく、中学受験の全容をざっくり把握できるのでおすすめです。

僕たちは結局、競争から逃れられない

僕のように田舎の小学校でクワガタを取って過ごした人間にとって、都会の受験戦争は衝撃でした。
作ったミニ四駆の速さや育てたクワガタの強さで序列が決まっていた小学校時代。

同じ日本なのに、田舎の小学生とは全く別の世界を生きているように見えました。

自分が中学受験をしたことがないため、中学受験の是非を判断することは難しいですが、少なくとも大学受験までは僕たちはずっと競争を強いられます。

会社に入って出世を目指すなら、大人になってからも競争です。
僕たちは結局、競争からは逃れられない。

だったら競争を後回しにするのではなく、小学生のうちに厳しい環境で競争し、あとの人生の糧にするのが良いのかもしれません。
人生は誰だって一回勝負なので、何が正解なのかは本当にわからないんですけどね。

僕は都会の公立中学の様子はわからないのですが、ちゃんと勉強する生徒がみんな中学受験するのであれば、残った公立中学はヤンキーの巣窟になってしまうのではないかと恐れています。

oreno-yuigon.hatenablog.com

田舎の公立中学でも武力が支配する修羅の世界だったのですが、「上澄み」が全部消えた東京の公立中学の世界はもはや『北斗の拳』なんじゃないかと。

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まあ、見たことがないから空想してるだけです。


僕のツイッターのタイムラインにはたびたび「いい男とデートした」「イケメンで高学歴で高収入な男を見つけた♡」みたいなツイートが流れてくるのですが、10年後には

「SAPIXやばすぎワロタ」
「子どもの塾の宿題がやばい」

みたいな、殺伐としたツイートや、

「子どもが開成に受かりました!」
「桜蔭の親だけど何か質問ある?」

みたいな、ほっこり合格ツイートが流れてくるのでしょうか。

『二月の勝者』はツイッターを眺めていてたまたま見つけたのですが、マンガとしてもとても面白いので、受験が関係なくてもおすすめです。

二月の勝者 -絶対合格の教室- コミック 1-5巻セット

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