LINEで「ザオラルを送る」とはどういうことか?



ザオラルとは「ドラゴンクエスト」というゲーム内で使われる呪文のことだ。

この呪文を使うと、2分の1の確率で死んだ者が蘇る。
転じて、屍のように返事のない相手に「生き返ってくれ」と願いを込めて送るLINEを「ザオラル」と呼ぶようになった。

ハロウィン、クリスマス、年明けの「あけましておめでとう」

様々な節目は「ザオラル」を送るビッグチャンスと言われている。

この記事は1月2日に書いているので、まさに

「あけおめザオラル」

を送る絶好のタイミングとも言える。

だが実際はどうだろう。

ザオラルのフィーバータイムなはずなのに、私は「あけおめザオラル」を一通も送っていない。

なぜか。

私は傷つくのを恐れていて、たとえ知り合いになったとしても、最初のLINEの反応が悪い女の子は即座に削除してしまっていたからだ。

返事がない子を「ザオラルを後で送る後回しリスト」に入れることを「ザオラルフォルダに入れる」という。

しかし私のLINEアプリにザオラルフォルダは存在しない。

あるのは返事がなかった屍の山だけである。

この屍の山は私の心の弱さだ。

LINEが返ってこない女の子を目に入れるのが嫌だという気持ちの裏返しだからだ。


覆水盆に返らず、削除したLINEは元に戻らず。


男から送るLINEはザオラルと呼ばれるが、女子から送られるLINEはザオリクという。
ザオリクは100%死んだ人を蘇らせることができる呪文である。

僕は女子からLINEが来たら飛び跳ねて喜び、生き返る。


今日は運よく送られてきたザオリクメールの話を余話として挟みたい。


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出会いは駅

彼女と出会ったのは4ヶ月前だった。

駅のホームで電車を待ってる時に、声をかけた。

「あの、この電車って○○に向かう電車ですよね?東京って電車多くてわからなくって」

手元のスマホでは「乗り換えナビ」のアプリが起動していたが、いけしゃあしゃあと目の前の女の子に尋ねた。

「あ、はい、これで間違いないです」

「ありがとう(ニコッ)

あれ?今って仕事帰りなんですか?俺もちょうど、飲みの帰りだったんです」

こんな流れから始まり、10分ほど電車の中で話を続けた。

そして目的地が同じだったため、一緒の駅で降りた。

「せっかくだから」

電車を降りたところで声をかける。

「少しだけ、飲んでいきませんか?」

「少しだけなら」


そのまま飲みに行って、

「アナと雪の女王でも観ませんか」

という定番の「DVD作戦」で一緒に家に帰った。


2015年の時点では「一緒にDVDを観る」というのが家に誘う際の鉄板の誘い文句だった。
この記事の体裁を整え直している2019年時点では「DVDに誘う」という行為はほぼなくなっただろう。

AmazonプライムやNetflixで動画を観るのが当たり前になってしまったからだ。
ホテルのように大量の映画から選ぶことができる。
便利な時代になったものだ。


出会いの話を続ける。
この子は私が土壇場でビビってしまったことによって、何事もなく終ってしまった子だった。

何事もない、というのは、家に呼んでおきながら手を出さなかったということだ。

これは紳士の嗜みでも何でもない。
チキンのビビリであり、女性への侮辱である。


その日はお別れてして、それからもたびたび連絡をくれていたのだが、忙しくてどうしても会うことができなかった。

しかし、年始はやることもなく家にいたので、どうせならと食事に行くことになったわけだ。

2015年のオープン戦が始まった。

体調不良の洗礼

あまりにも具合が悪かったので、どうしてもデートのやる気が出なかった。

ダサい服に、ダサい髪型。

コンタクトをつけるのも億劫で、メガネでアポに臨んだ。

体調不良は全てに響く。

やっぱり、人間健康第一なのだ。
風邪をひくとすべてのモチベーションが下がってしまう。

年末年始は特に気をつけなければならない。
特にクラブなどに行ってしまうと、ほぼ必ず風邪を引いてしまう。

冬に人が密集した場所に行くのは避けたほうがいい。
体調不良は本当に全てに悪影響を及ぼす。


こんな最悪の状態から、私は結果を残すことができるのだろうか?


「おまたせ」

待ち合わせ時間ちょうどに声をかけた。

店の予約はしていない。

適当に歩いて、適当に見つけた店に入った。

意外と雰囲気がよかったのが幸いだった。

軽くご飯を食べる。

体調が悪くて酒は飲めない。

それでも彼女は優しかった。

どうも自分の気持ちが乗ってこなかった。

身体の調子が悪い。

これはあかんやつや...。

心が折れそうになりながらも、デートを続行する。

一度会うと決めたなら、最後まで楽しんでもらわないと。
それが私のルールだ。


1時間で店を出る。

いつもの言葉が出てきた。

もはや習慣になっていた。

「めちゃくちゃ美味しいアイスクリーム屋があるんだ」

「秘密のアイスクリーム屋なんだけど、最高級のアイス完備してる」

などと言いながら自宅に向かって歩いた。


マンションの玄関に着くと、

「やっぱり家っ!」

と女の子が爆笑した。

「ウケる~」

と言いながら自宅に入ってきた。

いらっしゃい。

一緒にハーゲンダッツを食べる。イチゴ味のハーゲンダッツだ。



僕はイチゴ味のハーゲンダッツが大好きで、いつもはバクバク食べていたのに、それすらも残してしまった。

ううう、体調が悪い。
ウイルスが憎い。

このとき既に気付いていた。
全てが雑だった。

トークも表情も、誘い方も間のとり方も全てが雑だった。

自分が嫌になった。
誘っておいて、何もしない。

何がしたいのかわからない。
バッティングセンターに行って、バッターボックスに立って、バットも振らずにただボールを見ている男はいるだろうか?

頭がおかしい。

そんなことはわかっていたのに、それでも早く眠りたい。
身体が睡眠を欲していた。


なぜ、家に一緒に帰ってきてしまったのか。


アイスを食べながら、意識が朦朧としてきた。

あれ、二人で何かを笑っていたはずなのに。

気付いたら寝てしまっていた。


嘘...?
俺、寝てたの...?


女の子はいなくなってしまった。

机の上を見ると、手紙が置いてあった。

「お疲れ様。今日は具合悪いのにありがとう。

お大事にしてね。

今年のはじめに会えてよかったです」


手紙と一緒に僕の好きなミカンゼリーが置いてあった。

なんだ、覚えていてくれたんだ。

少し涙ぐんで、ゼリーを食べた。

冷たいゼリーが身体に染み込んでいく気がした。


生き返ったのはLINEではなく、私の心だった。


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