東京ミッドタウン日比谷の通路を山手線の線路側に向かって歩くと、見慣れたような高架下の光景が広がっていた。
昔々夜遊びしてた頃、日比谷にある
「ディアナ」
というクラブで女の子に声を掛けて、
「この後飲みに行こうよ」
と一緒に店を出て向かった先が、有楽町の高架下だった。
安くて早い吉野家みたいな居酒屋が多く、みんなで飲んでもそれほどお金はかからない。
夜中の2時頃まで飲んで話して仲良くなって、相棒の友達に目配せをする。
「そろそろ出ようか」
と僕が言って、店を出て会計を済ませる。
外に出たタイミングで、友達が僕に
「コイツんち行こうよ!ここからタクシーで行けるからさ!お酒もたくさんあるし」
と言うのがお決まりのパターンだった。
それに対して僕は
「いやいや、急に無理だよ」
と一度断る。
そこでさらに友達が、
「いいじゃん!今日だけ!大丈夫だって!そろそろ眠たいよね?」
みたいな追い打ちをかけ、僕は嫌がりながらも渋々了承するという芝居が定番だった。
何度も何度も繰り返した茶番だった。
なんて白々しい演技だったんだろう。
女の子もきっと、気付いていたんじゃないかな。わざとらしいって。
東京の夜は嘘に優しい。
気付かないフリをしていれば、考えることなく流されていける。
有楽町の高架下沿いを新橋側に向かって歩くと、コリドー街の入り口にぶち当たる。
初めてコリドーに遊びに来たときは、この道を歩く女の子を見て胸がときめいた。
なんて楽しそうな夜なんだろうと思った。
良いスーツを来たサラリーマンが、可愛い女の子に声を掛け、連れて歩いている。
これが東京の夜なのかと感動を禁じ得なかった。
コリドーをまっすぐ歩いていくと、SNAPPERと呼ばれるバーがある。
ここは
住友商事社員のたまり場
と聞いたことがある。
金曜の夜にチャラそうなサラリーマンがウロチョロしているのもこの辺だ。
「SNAPPER GROUPER」
なんてチャラそうな名前の店だろう。
僕も一度でいいから商社マンになって、SNAPPERでブイブイ言わせる人生を歩んでみたかった。
日曜だと言うのに、コリドーのHUBは溢れんばかりの人だかりであった。
HUBはコリドーで声を掛けた女の子と一緒に入る定番の店である。
「うえーい」
とありがちな奇声を上げて、
「やぁ、合コン帰りかい?」
と声をかける。
相手に反応があれば、HUBで二次会しようと提案する、みたいなことをやっていた。
コリドーで声を掛けて、女の子を連れて行く店と言えば、HUBだった。
しかしながらこのHUBに一緒に行った女の子と、その後の関係につながったことは一度もない。
残念だ。実に残念だ。
ここは僕の血と汗と涙が染み込んだ
300BAR
である。
僕のコリドーの夜遊びは300BARから始まり、300BARで終わったと言っても過言ではない。
今でも週末にはたくさんの男女が集まり、出会い、恋が生まれ、そして愛を育んでいっている。
たくさんの思い出を作った。
たくさんの女の子と出会い、連絡先を交換した。
数年経った今、まだ連絡を取っている子は誰もいない。
名前を覚えている子もいない。
あの夜は幻だったのかな。
涙でネオンが眩しいよ。
銀座名物「俺の」シリーズである。
値段がリーズナブルなのに味は本当に美味しい。
座って食べることもできるので、ぜひデートに使ってほしい。
コリドーを抜けて銀座中央側に向かって歩くと、HOOTERSがある。
僕は一度も入ったことはないが、エロいお姉ちゃんがいるらしい。
そしてここは並木通りである。
アルファツイッタラー界隈随一の「声掛けの達人」と言われるゴッホさんが得意としたフィールドでもある。
僕が初めてゴッホさんの声掛けを見たとき。
その光景に圧倒された。
読者の皆様は、女の目がハートになった姿を想像しているのかもしれない。
なにせゴッホさんは嵐の二宮和也似のイケメンである。
ニノは俺達の想像を軽々と越えていく。
ニノが並木通りを歩いた時に見た光景は、これである。
ゴッホがイケメンすぎて、すれ違う女がバタバタと気絶していったのだ。
これぞ覇王の姿である。
右手にストロングゼロ。
左手にツイッター。
ゴッホが手を上げると並木通りのスカウトが道を開けた。
その姿はゴッホならぬモーゼであった。
銀座にはたくさんの思い出がある。
コリドーを駆け抜けた思い出や、ユニクロ前で待ち合わせした思い出。
ゴッホの神々しい姿を見て背中を見送った思い出。
クラブ「ジニアス」でボロボロにされた思い出。
僕がたくさんの思い出を作ってきたように、これからもたくさんの人が銀座に思い出を残していくのだろう。
あの頃の僕はフラフラ遊んで無駄遣いばかりして、何も残っていないかと思ってた。
ところがどっこい、街を歩けばそれなりにたくさんの思い出がフラッシュバックしてくるものである。
みんな、銀座を歩こう。
銀座の街には思い出が落ちてるから。