横槍メンゴ『クズの本懐』 の名セリフ「興味のない人から向けられる好意ほど 気持ちの悪いものってないでしょう?」



『クズの本懐』第1巻の名セリフが僕の中で話題になっている。

興味のない人から向けられる好意ほど

気持ちの悪いものってないでしょう?


クズの本懐 第1巻 第四話 ハイスクールガールララバイより


「興味のない人から向けられる好意ほどキモいものはない」

というのは実に本質をついたセリフだと思うのだ。

『推しの子』もそうだが、横槍メンゴさんの漫画は人間の本質をつくセリフが多い。

この絵の女の子はなんとなく『推しの子』有馬かなに似ている。


『クズの本懐』のストーリーと感想

主人公である安楽岡 花火(女)と粟屋 麦(男)。

いかにも少女漫画風な名前の二人は、校内みんなに羨ましがられるほどの美男美女カップルだった。

大人と違い、年収や会社名では評価されない温かい世界の恋愛。

美男美女である二人は学校中の羨望の的だった。

花火は自分で語る。

「私たちは皆が羨む理想のカップルだ」と。


しかし、そんな理想のカップルで始まり幸せに過ごしていたら、少女のストーリーは進まない。
読者は誰も主人公が最初から幸せになることなど願っていない。
主人公の恋は、最後まで実ってはいけないのだ。

理想のカップルと思われた二人には、実はそれぞれ想う人がいた。

花火は、幼馴染でもあった国語の先生を。
麦は昔、家庭教師をしてくれた音楽の先生を。


麦と花火はお互いに都合の良い関係で、付き合うにあたって二人の間には約束があった。


(1)お互いを好きにならない

(2)どちらかの恋が成就したら関係は終わり

(3)お互いの身体的欲求はどんな時でも受け入れる事


このような複雑な関係を保ちつつ、ストーリーは進んでいく。
それぞれの恋は実らぬまま。


部屋で二人きりになったある日、麦は花火と恋人同士の行為のようなものを始める。


「お兄ちゃんだと思って」


花火は「途中」まで麦を受け入れる。
寸止めである。

この辺の心理描写は女向けの漫画ならではだった。


少女漫画は行為の際に、キャラの感情を描く。
青年漫画は行為の際に、キャラの視覚を描く。


少女漫画は共感を。
青年漫画は支配を。

それぞれの視点の違いは鮮明だ。

この漫画では行為の際に、花火の繊細な心理描写が特徴的だった。

突き離せなかった。
「麦を」じゃない

麦を通して見たお兄ちゃんを。


これが男漫画だったら、アーンアハハンひとコマで終わり、次の瞬間には朝になって鳥がチュンチュンと鳴いているに違いない。


少女漫画はそうはいかない。
繊細な心理描写が大切なのだ。

どうでもいい話だが、我々男も、行為中に別の女の子を妄想することもある。
ただし、「麦を通して見たお兄ちゃん」のようなおセンチな想像ではなく、あくまで視覚的な興奮のために、脳内で肉体以外の情報を書き換えているに過ぎない。

呪術廻戦でいうと羂索のような術式を、我々男は行為中に発動する。脳内で入れ替えるのは相手の顔面だが。

興味のない人から向けられる好意ほど 気持ちの悪いものはない

さて、冒頭の名言。
これはネットで話題になったセリフでもある。


同じ告白シーンでも、男性作者が描く漫画では、


「男の子に好きって言われて、嫌な人はいないでしょう?」


と描写したのに対し、女性作者が描く漫画では、


「興味のない人から向けられる好意ほど 気持ちの悪いものってないでしょう?」


と描いた点、あまりにも対照的だということで、話題になった。


  ↑
男性向け恋愛漫画

女性向け恋愛漫画
  ↓


oreno-yuigon.hatenablog.com


女性向け恋愛漫画は

「全然モテない地味な女が超大金持ちのイケメンに一途に愛される」

みたいな非現実的なストーリーを書きがちで、男の心理描写はリアルとは言い難い。
現実では、超大金持ちのイケメンはモテないブスに恋しない。


しかし女の心理描写に関してはものすごくリアリティがあると感じる。

横槍メンゴ先生の

「好きでもない奴から好意をぶつけられたらマジでキモい」

は割と多くの女性が抱くリアルな信条なのではないだろうか。

さて、こちらがネットで話題の例の場面の紹介である。

ネットでは大盛り上がりなこのシーンだが、ストーリーには大きな影響はなく、ただゴミが振られただけの話であった。


「あの・・・安楽岡さん! おっ覚えてるかな あの・・・返事を・・・」


(......誰?
めんどくさい......
なんで私 すぐ返事しなかったんだろ)



「ごめんなさい」


「えっ」


「ちゃんと答えました。それじゃ」


「ちょっ......ちょっと待って! い......一週間待ったのに! 期待するじゃん...」



(あ 泣きそう この人。

泣きそうなくらい
私の事 好きなのか)


このやり取りが、伝説の一コマにつながる。


「......興味のない人から向けられる好意ほど 気持ちの悪いものってないでしょう?」



ここで振られた男は、作中にも二度と出てくることはなかった。

作者の頭からも忘れ去られたのだろう。

女にとって興味ない男の扱いなどその程度なのだ。

記憶から抹消されるモブ中のモブ。 One of them.
いないものと同じ扱いだ。

道で飛んでいる虫と同じだ。
はたけば消えて、二度と振り返ることのない存在だ。


一巻の最後はこのようなつなぎで締められる。


「一人が寂しいなら

寄り添ったっていいじゃないか

遂げてみせるよ

クズの本懐」


oreno-yuigon.hatenablog.com


横槍メンゴ先生の『推しの子』も面白い

2023年、『推しの子』のアニメが流行っているらしい。

僕はアニメは見たことはないのだが、ヤンジャンのアプリでずっと漫画を読んでいて、毎週泣いていた。


宮崎の病院に推しのアイドルであるアイが現れた。彼女はなぜか妊娠していた。

アイ

産科医の主人公はどうしようもなく、彼女のファンである。

「アイドルとしての嘘をつきとおす」そんな彼女の意志を汲み取り、病院で無事に出産させる決意をする。


彼女の出産日、主人公は何者かに突然殺されてしまうのだった。

次の瞬間───

気付くと、主人公は生まれ変わっていた。

生まれ変わったらスライムになったわけではなく、「推しの子」になっていた。
すなわち、アイの子供として転生したのである。

大好きな推しの子として生まれ変わった主人公は、幸せな日々を送っていた。
前世で自分を殺した人間に感謝すらした。

大好きなアイと一緒に人生を歩める幸せを噛み締めた。


この幸せが、ずっと続けばいいのに──────


主人公が4歳のある日、アイは殺されてしまった。
アイに隠し子がいることを知ったファンによって刺殺された。

「大好きだよ。この言葉は嘘じゃない」

主人公に桜木花道のようなセリフを残して、アイの人生は幕を閉じた。


アイがいない人生なんて、意味がない。

死を選ぼうとした主人公に、1つの疑問がよぎる。

なぜ、アイは死んだのか?
アイを殺した人間を操っていた人間がいる。

それは自分の父親に違いない。


そいつを、殺す。
アイをこんな目に遭わせた奴に復讐する。

それまでは死ねない。

...というのが1巻までの話。

2巻ずっと面白くて、泣きっぱなしで読んでられるのでめちゃくちゃ推したい。


クズの本懐2巻の感想は以下の記事です。

oreno-yuigon.hatenablog.com

興味のない男に向けられる行為はなぜキモいのか?

人の祖先がチンパンジー・ボノボの祖先と別れたのは600万年前〜700万年前くらいらしい。


猿人(アウストラロピテクス)→原人(ホモ・エレクトス)→旧人(ホモ・ネアンデルターレンシスなど)→新人(ホモ・サピエンス)の流れでヒトが進化していく過程で、本能は作られていった。

アウストラロピテクスが活動していたのは500万年前で、ホモ・サピエンスが拡散していったのが10万年前となる。

本能が作られる過程のほとんどで、ヒトは石器時代のような生活をしていたと思われる、

人類の起源


「興味のない男に向けられる好意はキモい」というのは、本記事の命題でもあるが、「キモい」という感情は石器時代に本能として刻まれた。

黄色と黒のシマシマの虫を「キモい」と感じて拒絶するのは、その虫が毒を持っている確率が高いからである。

「キモい」とは「距離を置け」という身体からのアラートでもある。

「キモい」から適切に距離を置かず、危険を避けられなかった個体は、長い進化の過程で数を減らしていったのかもしれない。

「興味のない男に向けられる好意」が"キモい"理由も同様で、危険を回避する本能と思われる。

キモい男から距離を置かないと、何をされるかわからない。
女性の力は弱いので、法のない石器時代に「自分に好意を持つキモ男」に何かされてしまうと、抵抗できなかった。

キモ男は黄色と黒のシマシマの虫と同じで、生命に危機をもたらす害虫のように認識されているため、「こいつの好意、キモ...」となってしまうのである。

まぁほぼこじつけだが、間違いなく言えるのは、「キモい」に理由などはない。

興味のない男からの好意を拒絶するのは、女性の本能である。