『暗殺教室』『魔人探偵脳噛ネウロ』といった数々のヒット作を生み出した松井優征先生が久しぶりにジャンプに短編漫画を載せていた。
2018年48号「編集なんてろくなもんじゃない!」というタイトルで、レジェンド作家が新人時代を振り返る企画の一つだ。
今は誰もが好きな形で情報発信できる時代である。
描いた漫画はブログに載せてもいいし、Youtubeにアップしてもいい。
pixivに投稿している人もいるだろう。
ネット上にアップすれば、不特定多数の人が評価してくれて、ファンもつく。
そういう流れがあるからか、最近の新人作家は出版社に持ち込みしない方が多いそうだ。
松井先生はその気持ちがよくわかるという。
自分のウェブで漫画を公開すれば温かいファンが見てくれるし、何より編集者にボツを喰らわず好きに描けるのだと。
松井先生はそれから、自身の新時代を振り返っている。
最初に持ち込んだのが浅田さん。
浅田さんが不在のときに代わりに見に来てくれた中野さん。
編集者にボツと言われた作品が月例賞でトップを獲ったこともある。
編集者の漫画の見る目なんてそんなものだと。
自信を持って出した漫画にダメ出しを喰らわせ、ボツにして、その割にダメ出しした漫画が賞を獲ることもある。
編集者なんてそんなものだと。
それでも。
画力が未熟すぎてどの雑誌に行ってもあしらわれてきた新人時代の松井先生の漫画を初めて本気で褒めてくれたのも、ジャンプの浅田さんだった。
新人時代に面と向かって言われたこと、されたことは本当に忘れない。
悔しいことも、嬉しいことも。
その全てが漫画家の自分の礎に鳴ったのは間違いないのだと。
直に表情を見ればお世辞がわかる
褒めてくれるときも、ダメ出しされるときも、直に表情を見れば本音かどうかがわかる。
松井先生は自分の作品を本気で褒めてくれた浅田さんの姿を見て、
「ジャンプで頑張ってみよう」
と思えたという。
その先に、大ヒットした傑作『暗殺教室』が生まれたのだ。
- 作者: 松井優征
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さて、翻ってインターネットの世界は基本、匿名である。
コメントを書いてくれた人の顔は見えない。
そのコメントが本音なのかポジショントークなのか、何を思って書いているかを理解するには情報が少なすぎるのだ。
また、度重なる誹謗中傷の問題から、インターネットでは「批判を排除する仕組み」が発達した。
ツイッターは気に入らない人間をブロックしたり、ミュートすることができる。
コメント欄は閉鎖できるし、コメントされても「見ない自由」がある。
そうするとどうしても、自分を肯定してくれるコメントや、気持ちの良いコメントだけを選別するようになってしまう。
僕はこれまで、コメントを完全ブロックしたり、ツイッターで気に食わない人を排除しまくった末におかしな新興宗教の教祖みたいになってしまったネット芸人をたくさん見てきた。
ネットの批判はクソが多いのも事実だが、「気持ちの良い関係だけを残す行為」は自分を裸の王様にする可能性だってあるのだ。
それに、ネットの批判がクソになってしまうのは、互いに利害関係がないからである。
利害関係がない相手を本気で添削したり、本気で育てようとする人はいない。
結果、自意識が肥大化し、誰にも否定されることなく、批判を受け入れることもなく、心地よい承認の中でたゆたっているうちに、世の中とずれた価値観が自分の中に根付いてしまうかもしれない。
ネット芸人一本で食っていく危うさはそこにある。
自分と本気で向き合ってくれる人を見つけること。
直に会って、相手の表情を見て、そこからフィードバックを得ること。
それによって自分のモチベーションが大きく上がり、成長につながるのだ。
直接会うことで心が動く
本を読んで心が動いたことはたくさんある。
つい最近も『竜馬がゆく』を全巻読み返して号泣した。
あんなに胸を熱くさせる小説は他にない。
志を高く持とうという気にさせてくれる。
漫画を読んで泣いたこともある。
Youtubeを見て心が動いたことだってある。
それでも、今までの人生を振り返ってみると、やはり一番心にガツンとくるのは、
「人と直接会ったとき」
なのだ。
学生の頃、インターンシップに参加して周りの学生の優秀さに圧倒された。
そのとき感じた屈辱感、無力感は
「俺はこのままじゃマジでダメだ。本気で変わらなければいけない」
という大きなモチベーションにつながった。
直に「すごい人」を見ることができたからである。
孫正義の就活生向けのプレゼンを見て、震えるほど感動したこともある。
目で見て、耳で聞いて、直接脳を殴られるような衝撃は、本やネットからでは得られない。
できれば偉い人の話を聞くだけでなく、自分が話して、相手の話を聞いて、相手から学ぶのがいい。
本気で批判してくれる人の存在はありがたい。
自分が本当に直すべき点がわかるからだ。
本気で屈辱を感じる機会はありがたい。
絶対に見返してやろうというモチベーションにつながるからだ。
本気で誰かに認められた経験は自分を変える。
相手の表情が変わって、本気で自分が認められたことを実感できるからだ。
松井先生は今回の短編でこう語っている。
「人と人とのダイレクトな繋がりは成長を呼びます」
ダイレクトな繋がりの中で受けた刺激が、自分の礎になっていくのだ。