官僚主義的な大企業での合理的な生存戦略を考える




前回の記事で、官僚主義に陥ってしまった大企業の特徴を書きました。


関連記事:日本の大企業に絶望してGoogleやスタートアップに転職する人が目立っている件


官僚主義に陥ってしまった大企業では、「過去の勝ちパターン」があるがゆえに非効率な慣習が温存されてしまい、
組織の巨大さ故に変化に対応しにくい構造になっており、そんな環境に嫌気が指してしまった優秀な若手がGAFAやスタートアップに転職しているのが最近目立ってますね、というよくありがちな話です。


上の記事のように官僚組織の問題点を書くと、意識が高いおじさん世代の人から

  • 愚痴を言うなら会社を変えるように働きかければいい
  • 会社の承認のハードルくらい超えられないくらいならビジネスは成功しない
  • 文句を言うなら辞めればいい


みたいなツッコミが入りがちです。

『サラリーマン金太郎』とか『課長島耕作』を見て育ち、光り輝くサラリーマンに憧れた世代です。


しかし、ここには罠があります。


まず、大きな組織はボトムアップでは変わりません。

トップダウンで偉い人に強烈に尻を叩かれて初めて、偉いおじさんが動き、おじさんの下の中堅が動き、最後に若手が動くような構造になっています。

若手が大きな声で叫んでもピラミッドの下層の方がちょろっと変わるだけで、「ピラミッドの上の階層」にはなかなか伝わりません。


一部のものすごく優秀な若手社員が会社を変えるように働きかけようしても、全社に影響を与えるためにはどうしても多くの承認作業を経る必要があり、心を折られがちです。

一方で変革の過程で何らかの問題が発生した場合は、その問題を報告するための大量の資料を作り、偉い人に何度も説明しなければいけないという苦行が予想されるため、なかなか変革に動き出すインセンティブが働きません。


中には会社に働きかけてチャレンジの場を勝ち取る若手社員もいますが、トップレベルに優秀な人が「自分のチャレンジの場」を勝ち取るだけでも相当の苦労を重ねています。


しかしほとんどの人はそんな苦労もできない平凡な会社員であって、世の中に煌めくスーパーサラリーマンにはなれないわけです。

だからこそ、多くの人は悶々と悩みを抱えながら日々を過ごしているのです。


僕たちに必要なのはサラリーマン金太郎的な「スーパーサラリーマンの奇跡の大逆転ストーリー」ではなく、普通の人でも実践できる現実的な生存戦略なのではないでしょうか。


意識高い人達の話はいつも立派で素晴らしいものではありますが、それを無条件に受け入れるのではなく、自分にとって最も合理的な道を選びましょう。


会社を変えるように動くもよし。

出世を目指すもよし。

転職するもよし。

異動を働きかけるもよし。

プライベートを充実させるでもよいのです。


正解は一つではありません。


ならば我々に必要なのは、どんな選択肢があるのかを知ることと、その難易度を予想すること。

そしてできる限りのリスク減らすことです。


官僚主義的な組織を合理的に生き抜くためには、どのようなやり方があるでしょうか。

出世を目指すのは無理ゲー

はじめに僕の結論を述べると、大企業サラリーマンで出世を目指すのは難易度高すぎの無理ゲーです。

なぜなら出世ゲームは、運が左右する要素が多すぎるからです。

  • 配属ガチャに勝つ
  • 担当プロジェクトガチャに勝つ
  • 上司に恵まれる
  • 部下に恵まれる
  • お客さんに恵まれる
  • 異動ガチャに恵まれる
  • 時流に恵まれる


などの数多くのガチャをクリアしなければならず、その上でたくさんいる高学歴の優秀な同期の中で抜きん出た成果を上げなければいけません。

プライベートの時間では絶え間なく自己研鑽を行い、残業を苦とせず、会社のために粉骨砕身尽くし続ける必要があります。


そして30年かけて出世の階段を登ったところで、以前のシャープや東芝のように会社自体が傾いてしまったら元も子もありません。

また、運良く社長になれたところで会社のオーナーではないので莫大な金が入ってくるわけでもなく、ZOZOの前澤社長のように「俺、月に行くわ」みたいな真似はできないわけです。

難易度の割に、旨味が少ないですよね。


それに「サラリーマン金太郎」の金太郎は、圧倒的な行動力と類まれな発想力によって出世していったように見えますが、奴の出世は99.9%運によるものです。

パチンコ屋でたまたま日本有数の金持ちのババアに気に入られたり、たまたま超大物政治家に気に入られたことが金太郎の出世の最大の要因であり、我々の現実世界では全く再現性がありません。


また、かつて「サラリーマンのバイブル」と言われた島耕作も知らない女に寝技を仕掛けてばかりの色男で、普通の人が真似したらすぐに不倫で失脚するでしょう。

現実は漫画のようにはいきません。

それゆえに、「大企業で出世を狙っていくゲーム」の難易度は激高です。

それなら将来性のある小さな会社に入って、未来の大企業の役員として君臨する方が難易度は低いと思います。

これらの結論から、いわゆる

「会社で出世して成り上がっていた人」

の成功論や仕事論は再現性がなく、参考にならないということがわかります。


【大企業で出世狙い戦略】

難易度:激高
リスク:高
リターン:高
ステータス:高
おすすめ度:★

大企業+副業

大企業のゆるふわ環境をベーシックインカムとして使い、プライベートビジネスに精を出すパターンです。

いわゆる「大企業 + 副業」パターン。

安定した企業で収益基盤を築きつつ、プライベートの時間で自分のビジネスを育てる手法は、近年の副業ブームの後押しもあり、多くのサラリーマンに浸透してきたように思います。


このパターンで大事なのは、「とにかく意地でも自分の時間を確保すること」です。

残業はできるだけ避けて、さっさと家に帰り、その時間を自分のビジネスに注ぎ込みます。


副業戦略の良いところは会社勤めによって生活基盤を確保しながら事業を育てることができる点です。

一方で悪い部分もあります。

専業で事業に専念する場合に比べて、事業の成長は確実に遅くなります。

会社での残業もできないので、どうしても会社に誠心誠意尽くしまくってる人に比べると評価が落ちる可能性があります。

身体は一つしかなく、「会社の出世」と「副業の成功」の二兎を追うことはリソース的に厳しいため、
副業戦略は「会社での出世を諦める」という覚悟と制約のもとで遂行する戦略となります。


ちなみにこの戦略は

・副業規定が厳しい&クビになったら明日の生活も危うい

ような環境で遂行しようとすると、おそらく大半の人は心が折れると思います。

その場合はまず、後述する【貯金大作戦】を実施し、1〜2年は働かなくても生きていけるだけの軍資金を貯める必要があります。

ちなみにクビになりそうなときは必ず「会社都合による退職」にしてもらいましょう。

失業保険が早めにもらえます。



【ゆるふわ企業 + 副業】

難易度:低
リスク:(バレなければ)低
リターン:低
おすすめ度:★★★


この戦略の遂行には税金の知識が必須です。
以下の記事で紹介する本を読んで、税金の勉強をしておきましょう。

関連記事:『お金のこと何もわからないままフリーランスになっちゃいましたが税金で損しない方法を教えてください』が最高にわかりやすいから、副業に興味があるサラリーマンは絶対読むべき

転職成り上がり戦略


Voicyというラジオアプリにmotoさんという方がいます。

motoさんの1社目の年収は240万。

そこから転職を重ねるごとに年収を上げていき、5社目の年収は1,250万となりました。

motoさんがVoicyで語っておられるように、「転職で年収を上げていく手法」はある程度体系化できており、試行回数も稼げるため、おそらく最も運に左右されにくい戦略です。

ただこの戦略の前提として、勤務先の会社ではハンターハンターのクロロ団長のようにスキルを盗み、「社外に持ち運びできる能力」を継続的に増やしていく必要があります。


「社内の○○さんとのコネクションがあるから仕事が進めやすい」

とか、

「会社のルールを熟知しているから承認会議は任せろ」

みたいな能力は社外では役に立ちません。


転職成り上がり戦略を成功させるためには、

「他の会社でも役に立つスキルを身に付けられるかどうか」

で職場を選ぶ必要があります。


転職で年収を上げていく戦略の素晴らしいところは、リスクが極小であることです。

自分の市場価値を常に高め続けることになるため、万が一勤め先の会社が倒産しても、同等の条件で他の勤め先を探すことができます。

会社勤めが苦にならない人にとっての最適解ともいえるでしょう。


田端信太郎さんの「ブランド人戦略」も「転職成り上がり戦略」の亜流です。

「自分の看板」の評判が高まっていくような仕事を選び、実績を積み、価値が高まった「自分の看板」を全面に押し出して、より好条件の職場に転職していきます。


転職成り上がり戦略はリスクが低く、運の要素に左右されにくく、個人の努力が効きやすい戦略です。

ただ残念ながら、

  • 仕事の成果は全て会社に帰属する
  • 個人の信用が高まっていかない
  • 社内でしか通用しないスキルばかりに習熟していく

ような、官僚組織にありがちな職場に勤めている場合、この戦略を取ることは難しくなります。


【転職成り上がりブランド人戦略】

難易度:中
リスク:低
リターン:中〜高
おすすめ度:★★★★

※motoさんは「副業戦略」と「転職戦略」併用して、さらにリスクを下げていました


関連記事:田端信太郎さんの『ブランド人になれ』は読んで自分で考えて教訓を得る本

会社にフルベットし、プライベートを充実させる

「会社が潰れない」という前提に立ち、出世の戦いに身を投じることはせず、とはいえサボるわけでもなく、真面目に働き、定年を目指す戦略です。

大企業社員の半分くらいはこのような「終身雇用・年功序列」を前提として働いているように感じます。

この戦略の良いところは、年を取れば取るだけ、その会社では動きやすくなり、仕事が楽になってくることです。

職場の人間関係に恵まれた場合は会社の居心地も良くなり、それほどストレスなく毎日を過ごすことができます。


この戦略では仕事のリスクを会社に預けきってしまうため、自分のリソースを「家族計画」とか「ローン」に思いっきり振り分けることができます。

その分、プライベートも充実させることができるでしょう。


一方で、終身雇用戦略の悪いところは当然、会社が潰れたら人生も同時に潰れるところです。

年功序列組織では、会社での評価が市場の評価よりも高くなりがちなので、会社が潰れたら同条件の転職先が見つかりません。

ローンを組んでたりすると、人生が詰む可能性がより高くなります。


そんなリスクを少しでも減らすために、人的資本を一つの会社に賭ける場合は、それ以外の金融資産を不動産や株、債券などに振り分けて、リスクを分散しておく必要があります。



【年功序列・終身雇用にフルベット戦略】

難易度:極低
リスク:高
リターン:中
おすすめ度:★



貯金で軍資金貯める作戦

どの戦略を取るにしても、

「明日クビになっても困らない状態」

にしておくことはとても大事です。


そのためには、

「働かなくても1年間生活できるだけの生活費」

プラス

「次の職場が見つからなかったときの引っ越し費用」

くらいはあったほうがいいです。


いざというときは生活コストのかからない地方に脱出できるくらいのお金と、1年程度の試行錯誤期間を確保できれば、精神的にものすごく楽になります。


逆に毎月ギリギリの生活をして、貯金もなし。

生活コストの高い都会に住んでいて、会社をクビになったら来月生きていくこともできない、という状態の人は、何をやっても不安が拭いきれないはずです。


金は力であり、精神安定剤でもあるのです。


どんな戦略を取るにしても、一年間生きていけるだけの体力は確保しておく必要があります。

家族持ちの方は共働きしておけばリスクはさらに分散することができます。


生活コストを下げておく

生活コストはできる限り下げておくことに越したことはありません。

特に家賃は毎月流れ出ていく血液のようなもので、家賃が高かったら全然お金は貯まらないし、いざ仕事がなくなるときがきたら、あっという間に貯金を食い潰してしまいます。


生活コストが高い人はドラゴンボールでいうと重い道着を着たまま闘っているようなもので、どんなアクションをするにしても身重になります。

家賃と同様に、「専業主婦を養う」とか、「子供の高い教育費をかける」なども10倍くらいの重力となって身動きを取りにくくする要因でしょう。

こういうこと書くと必ず、意識の高い人が「言い訳するな。それでもなんとかやってる人はゴマンといる」というのですが、意識を高めても生活は楽になりません。

生活コストはできる限り下げておいた方が楽です。


しかし、生活コストを下げすぎて、ボロボロのマンションに住むと精神的にキツイものがあるので、


「我慢できる限界のちょっと上」


くらいを目指すのが良いのではないでしょうか。

普通のサラリーマンが家賃20万のタワーマンションに住んだり、都心の綺羅びやかなマンションに住むのはおすすめできません。

贅沢を覚えてしまうと、その水準を下げるときに辛くなるからです。


関連記事:生活コストを下げるために家賃の安いマンションに住んだら、人はどんな気分になるのか



まとめると、できるだけ貯金しておき、生活コストを下げて、リスクはできる限り分散し、その上で自分が取れる戦略のリスクと難易度を考慮し、自分の好みの生き方に最も合致した戦略を取るのがいいんじゃないの、という身も蓋もなく当たり前の結論になります。