motoさんの『転職と副業のかけ算』のAmazonのレビューを見ていたら、
「(転職前提の人は)仕事ができてもいつ辞めるかわからないし、信頼関係が結べない」
というものがあった。
世の中を俯瞰して見る力のある方ですが、その能力を少しでも社会貢献や社会問題の解決に使っていただきたい。
同僚がこんな感じの人だったら、仕事ができてもいつ辞めるかわからないし、信頼関係が結べないでしょう。
また副業はコンテンツ配信なんですね。
もう少し実務的なヒントが得られると思いましたが期待はずれでした。
- 作者: moto
- 出版社/メーカー: 扶桑社
- 発売日: 2019/08/09
- メディア: 単行本(ソフトカバー)
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「転職前提の人は」というのは僕が勝手に付け加えた解釈だが、レビュワーの方はおそらく
「市場価値を上げて、転職を通じて年収を上げていきましょう」
というスタンスで働く人は信用できない、と主張しているのだと解釈した。
本当にそうだろうか?
たしかに堂々と「私は転職するためにこの会社で働いています!」と公言する人は少ない。
というか、そんな人はいない。
当然、motoさんの本にも「周りに転職を宣言せよ」とは書かれていない。
それでも実際のところ、多くの人は
「良い条件があれば転職しても構わない」
と密かに考えているのではないだろうか。
今のご時世、会社に忠誠を誓い、今いる会社に骨を埋め、定年退職まで同じ会社で働き続けるのだ、と固く決意している人はいないだろう。
転職したくてもできない人、クビになったら困るから同じ会社でずっと働こうとする人はたくさんいるが、
優秀な人は周りに話すかどうかに関わらず、機会があったらサクッと転職してしまっているように思う。
ビジネス上の信頼は、あくまで利害の上に成り立っているのだ。
マイクロソフト役員の澤円さんがご自身のVoicyで、
「マイクロソフトでは外でいくらでも活躍できる優秀な社員が『それでも働きたい』と思える環境を作っていく」
と話していたのを今でも覚えている。
僕はそのスタンスに深く共感したし、いつでも転職できる優秀な社員がそれでも満足して働けるような環境だからこそ、良いものを作っていけるようにも思えた。
Googleの中井悦司さんもいつだったかの講演でこんなことを言っていた。
「Googleでは社員がバーンアウト(燃え尽き)しないように細心の注意を払っている。
Googleの社員は優秀だから、退屈な仕事をやらせるとさっさとどこかに転職してしまう」
自分で言うなよ...というツッコミは置いておいて、Googleやマイクロソフトの社員は基本的に、お互いがいつでも転職できる前提で働いている(ように感じた)
それで中の人達が互いに信頼関係が築けてないかというと、そうは見えない。
どちらかというと
「いつでも転職できる人が、それでも会社で働きたい理由があって、日々の業務を楽しんでいる状態」
の方が高いパフォーマンスを発揮できるのではないだろうか。
『転職と副業のかけ算』のレビュワーの方は「俺は転職してやんぜ!この会社は踏み台だぜ!」みたいなスタンスを露骨に表明して働く人など信用ならない、と言いたいのだとは思うが、さすがにそんなことを堂々と宣言する阿呆は採用しないだろう。
会社と会社員の望ましい関係は、お互いに依存することなく、ミッションを共有し、世に貢献し、成果を上げることだ。
会社は報酬や(やりがいのある)仕事で社員に報い、社員は会社の環境を最大限活用して利益を上げる。
逆に社員が会社に依存している状態だと、上記のようなwin-winの関係を築けない。
「会社を辞められない」という縛りから、理不尽な残業やくだらない業務を
「こんな作業、無駄すぎるよぅ」
などと愚痴を言いながら渋々やり続けることになりかねない。
また「ずっと同じ会社で働く」つもりで、終身雇用のタコツボで働き続けることを前提とすると、日々の業務は基本的に減点主義となる。
官僚組織がわかりやすい例だが、前例があるかないかを過度に重視し、「前例に沿った正しいプロセスを踏んだかどうか」がプロジェクトの成否よりも重んじられる。
会社に依存してしまうと残念ながら、くだらない慣習や理不尽な要求に「NO」と言えなくなってしまうのだ。
そういう意味でもmotoさんが主張する
- 自分の市場価値を常に意識する
- 市場価値を高めるために会社で成果を出す
- 副業の収入の安心感を土台にして、本業でチャレンジする
みたいな「転職と副業のかけ算戦略」は自己防衛という意味でも理にかなっている。
また、Amazonレビューでは「その能力を少しでも社会貢献や社会問題の解決に使っていただきたい」と書かれていたが、
そもそも「会社で成果を残すこと」は社会貢献や社会問題の解決に他ならない。
社会に貢献しているからこそ、会社にお金が入ってくるのだ。
......色々と書いてきたが正直この記事は、「Amazonレビュワーに横からイチャモンをつけて自分の主張を通す」みたいなことをしてしまっている。
とはいえ、『転職と副業のかけ算』の視点を持っておくのは“普通のサラリーマン”だからこそ大切なように感じた。
転職と副業のかけ算戦略は、サラリーマン金太郎や島耕作のように、倒産寸前の会社を救うような大活躍を見せて、社長への一本道を駆け抜けていくようなサラリーマンには必要ない。
彼らは転職など考えることなく、会社の中でまっすぐ社長に続く道を走っていけばいい。
しかし社長への道をまっすぐに走り抜けるには実力、運、仲間、機会、時流、業界の好不調、政治力、権謀術数全てに恵まれた状態を30年継続する必要があり、基本的には無理ゲーだ。
大企業で出世競争を勝ち抜き社長になるような人は英雄なのだ。
『転職と副業のかけ算』は英雄になれなかった会社員のための、地に足つけた戦略だ。
「出世しまくって大成功!」「上場して大金持ち!」みたいな夢はないが、「普通の人」がより豊かになるための現実的な処方箋なのだ。
【追記】
motoさんの副業戦略について考察した記事がこちらです。
oreno-yuigon.hatenablog.com