田端信太郎さんの『ブランド人になれ』は読んで自分で考えて教訓を得る本



大学生のときに夢中になって読んだ伊坂幸太郎の『ラッシュライフ』という小説の中に、とても印象的だったセリフがある。


伊坂小説は面白いキャラクターがたくさん登場するのだが、これはプロの泥棒とその仲間のセリフである。



「俺はさっき泥棒のプロフェッショナルだと言ったよな」


「確かに」


「でもな、人生については誰もがアマチュアなんだよ。そうだろ?」

佐々岡はその言葉に目を見開いた。


「誰だって初参加なんだ。

人生にプロフェッショナルがいるわけがない。

まあ、時に自分が人生のプロであるかのような知った顔をした奴もいるがね、とにかく実際には全員がアマチュアで、新人だ」


「アマチュアか」

佐々岡がぼんやりと呟く。


黒澤は、友人に自分の言葉が伝わっているのかどうかをじっと見つめながら、

「はじめて試合に出た新人が、失敗して落ち込むなよ」

と言った。




意識の高い大学生だった僕は、本屋や図書館で「成功した社会人」の自己啓発本を読み漁っていた。

表紙にデカデカと顔写真が載せられ、腕を組み、


「俺のようになれ」


というメッセージを発する「成功者」たちは、人生のプロフェッショナルに見えた。


人生は誰にとっても一回きりだ。

その意味で、人生については誰だってアマチュアで、新人で、一回きりで再現性がない。


初めての試合でホームランを打てることもあれば、失敗してしょぼくれてベンチに戻ることもある。


『ブランド人になれ』の著者である田端信太郎さんはプロ野球選手以上の年俸を稼ぐエクストリームサラリーマンだ。


一度きりの人生でホームランを打った男である。


この本には田端信太郎さんが何を考え、どのように行動し、今の成功に至ったのかが書かれている。


色々と批判の多い本でもある。

箕輪厚介さんが編集した本から一貫して発せられるメッセージは『ブランド人になれ』にも詰め込まれている。


「自分らしく生きろ」

「圧倒的努力で突き抜けろ」

「名乗りを上げろ」


これらのメッセージは箕輪さんの価値観と合致するものだろう。

だからこそ、箕輪さんは田端さんに惚れ込んだともいえる。


書籍自体にも箕輪さんが田端さんの思いを代筆した部分もあるようだが、

内容は田端さんの普段のツイートそのもので、文章も読みやすく、そこに全く不満はない。



「ホリエモンの『多動力』を読んでお前は何か成功したのか?

また同じような本を読んで、やる気になって終わりか?」


という批判もあった。

もっともな批判である。


やる気になっても、そこから何も行動しなければ自分自身は何も変わらない。

人が変わるには日々の行動の積み重ねと決断が必要で、本を読んだだけでは人はなかなか変われない。


とはいえ、たった1,500円で「やる気になれる」なら、それだけでも相当お買い得である。

何か一つでも心に残るフレーズがあれば、その買い物は大成功だ。

そして『ブランド人になれ』の中は心に残るエピソードがいくつもある。

この記事では心に残ったエピソードの一部を紹介する。


もちろん、本を読んでやる気に火がついたなら、その火を決して絶やさないように、大きな炎に育てていかなければならない。


大事なのはやる気になって何かを始めた後、それを習慣にすることだ。


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さて、『ブランド人になれ』から僕のような普通のサラリーマンが学べることはなんだろうか?


正直、田端さんの人生をなぞろうとしたところで再現は難しいし、真似したところでエクストリームサラリーマンになれる可能性は低いように思う。

田端さんの華々しいキャリアの横には常に、無名のサラリーマン達がいたはずだ。

その無名の人々も何かが違っていたらエクストリームサラリーマンになれていたかもしれないし、

もしかしたら田端信太郎さん自身が無名のサラリーマンのままだったかもしれない。


置かれた場所で花を咲かせるのは正しいか


「置かれた場所で咲きなさい」


という本が昔ベストセラーになっていた記憶がある。


自分がいる場所で腐らずに、逆境に耐え、努力していれば道は開ける、という教訓だったはずだ。


『ブランド人になれ』では田端信太郎さんのNTTデータ時代のことが語られている。

日中は顧客やパートナーとのアポが数件あり都内を駆けずり回る。

帰社してコンビニのサンドイッチをつまみつつ会議に出る。

夜になってやっとデスクワークだ。

馬車馬のように働き、終電で帰れたらラッキー。

会社の応接室のソファで寝ることもしばしばという生活だった。


「この2年間が自分のビジネスマンとしての基礎を作った」と田端さんは語る。


下積みが大事なのは間違いない。

量が質につながることも正しい。


でも、もし田端信太郎さんが今もそのままNTTデータで馬車馬のように働いていたとしたら、

プロ野球選手以上の年収をもらうエクストリームサラリーマンにはなっていないだろう。


むしろ得るべき教訓は、


基礎を身に付けたタイミングでさっさとリクルートに転職した点


ではないだろうか。


置かれた場所で努力するのは良いことだが、人生の花を咲かせるには場所を選ぶ必要がある。たぶん。

咲く場所を間違えたらどんな立派な種も大きな花にはならない。


NTTデータが悪いとは言わないが、個人の名前が前面に出やすい職場ではないだろう。

どんな花を咲かせたいかによって、巧みに、戦略的に土壌を選んで変えていく必要がある。


田端信太郎さんのキャリアで見事なのは、自らが咲く場所を巧みに選び取り、絶妙なタイミングで転職を続けてきたことだ。


もちろん、引き抜きに合うだけの実績をその場その場で残してきたのも素晴らしいのだが、

会社のリソースをふんだんに使って、自分の名前をどんどん売っていける場所を選んで動き続けてきたことが、彼をエクストリームサラリーマンたらしめた最大の要因であると僕は思う。


潰れかけて皆が逃げ出すライブドアにあえて残ることで、功績と手柄の総取りを狙った。

LINEが盛り上がり始めた頃に面白い仕事をやるために古巣(LINE)に戻り、広告事業を成功させた。

LINEの仕事が一区切りした後、ZOZOが世界展開する直前にスタートトゥデイ(現 ZOZO)に転職した。


サーファーらしく、これから盛り上がっていく波を見極め、乗っかっていく術に長けた方だと思う。


上司とのエピソードにほっこり


『ブランド人になれ』でとても印象的だったのは、田端さん自身がキャリアの節目節目で良い上司に恵まれてきたことだ。

成功した後もその上司のエピソードを忘れずに語るところが可愛い。


リクルートで「R25」の仕事を立ち上げようとした頃、社内の役員向けの報告会議で窮地に陥った若き日の田端さんを上司が救うシーンがある。

僕が役員の詰めに窮しているところ、上司のTさんが


「20年近く営業をやってきて、四半期ごとの目標達成率が90%近い実績の僕がついてるんで大丈夫です!

役員の皆さんは僕を信じないのですか?」


とまで言い切ってくれた。


帰り道、「あんな大風呂敷広げて大丈夫なんですか?」と心配する田端さんに


「イザとなったら俺がクビになればええんだろ。

そろそろ本気でプロゴルファーになろうかと思ってたから、丁度エエわ。

だから、お前らは心配するな。

内向きの言い訳仕事にエネルギーを使うなよ!」

と背中をグッと押してくれた。


このときほど、僕は上司の言ったことに心が痺れた瞬間はない。

「上司を巻き込み、共犯者にしてプロジェクトを成功させる」やり方は、僕でも真似できそうな教訓に見える。

明日から早速やってみよう。



こんなエピソードもある。

2005年。

逮捕直前のホリエモンと偶然に六本木ヒルズ38階の会社のトイレで会ったとき、僕はこう言われた。


「オレが体を張ってネタを作ってるんだから、とにかくオレを最大限活用しろ。

ネガティブでも何でも構わないから記事にしてページビューを稼げるだけ稼げ!」


衝撃だった。

人生最大のピンチを迎えている状況で、ここまで自分をネタにできる人間がいるのだろうか。


そこからライブドアニュースは「ホリエモン逮捕へ!」という超おもしろコンテンツをトップに据えた。


キャリアの節目で器の大きい上司に出会い、刺激を受け、自分自身の器も育ててきたに違いない。


人との出会いは大きく人生を変える転機になる。

人の影響力は本より大きい。


脱サラリーマン、脱社畜、副業容認、フリーエージェント社会の入り口に差し掛かった日本である。


そんな2018年に輝くいいとこ取りのエクストリームサラリーマンの姿は、日々憂鬱な顔で電車に乗るサラリーマンの希望になるかもしれない。


ちなみに表紙でドーンと田端さんが飛び跳ねていて、電車で読むのはけっこう恥ずかしかった。

僕自身が「歩く田端広告」になっていた感は否めない。


ブランド人になれ! 会社の奴隷解放宣言 (NewsPicks Book)

ブランド人になれ! 会社の奴隷解放宣言 (NewsPicks Book)


個人的にはところどころで出てくる歴史ネタがめちゃくちゃ好き。


似たような本で『転職の思考法』も良書だった。

本人同士も「同じこと言ってますよね笑」と語っていたそうだ。

『転職の思考法』はキャリアに迷っている会社員に刺さる内容だった




ラッシュライフ (新潮文庫)

ラッシュライフ (新潮文庫)