『バクマン。』という名作漫画があったことを知ってほしい



2008年から2012年に連載された『バクマン。』という漫画を覚えているだろうか?
少年ジャンプで一番の作家を目指す二人の若者の青春漫画なのだが、社会人の中堅になってから改めて読み返すと胸にくるものがある。

原作の大場つぐみさんはラッキーマンの作者で、デスノートの原作を担当したすごい人だ。
ジャンプ読者の中で、あのラッキーマンがデスノートのような話を描けるなんて予想できた人は誰一人としていなかっただろう。

ちなみに大場つぐみは公式では秘密とされているが、『バクマン。』のコミックス版で描かれているネームは完全にラッキーマンの絵なので、もはや疑う余地がない。
世間の目は誤魔化せても、ジャンプを25年読み続けた僕の目は欺けない。

さて、あの超名作だった『デスノート』以来の小畑健&大場つぐみコンビなので、最初から期待度は高かった。
しかし、

「プロの漫画家を目指す」

という設定と、第一話で「夢が叶ったら結婚しようね」みたいなメルヘンな展開が繰り広げられ、正直一話目を読んだときは、大場つぐみはデスノートの一発で燃え尽きたのかと思っていた。

が、それは僕の間違いだった。

「夢が叶ったら結婚しようね」

は決して恋愛漫画としての伏線ではなかった。

最初はヒロインである亜豆と結婚するために漫画家を目指す主人公(真城最高)だったが、新妻エイジという天才漫画家がライバルとなって、ストーリーは一気に青春に向かっていく。

新妻エイジに負けたくない。
ジャンプで一番の作品を作りたい。

そんな主人公の執念が常に作中から伝わってくるのだ。

第一話での主人公、真城最高はとても冷めた中学生だった。

夢を追って死んだ叔父を見てからは世界をとても冷ややかな目で見ていた。
普通に過ごして普通に生きて、普通にサラリーマンになって死んでいく。

まるで第一話のデスノートの夜神月のようだった。

そんなときに、後に原作者となる高木秋人に「漫画家になろうぜ」と誘われる。
最初は「漫画家なんて馬鹿なことを」と一蹴するも、そこからずっと恋していた亜豆と「夢を叶えよう」という話になって、それがきっかけで漫画家の道に進んだことは上で書いたとおりだ。

第一話で高木秋人が真城最高に向かってこう叫んだ。


「おまえ、このままダラダラリーマンになるんだ!
おまえの人生、それでいいんだ!」

そんな高木の叫びに対して、真城は冷めた答えを返した。


「中3で夢もって進もうとしてるおまえの方が珍しいんだよ
俺がふつうだよ」


この冷めた反応をする主人公を見て僕は思った。

「こいつは会社で仕事しているときの僕のようだ...」

と。

覇気がなく、冷めた目で「普通の生活」をこなす姿はまさに自分。
人生に情熱がない。

そして物語は進み、ライバルと出会い、失敗と挫折を経て真城最高は成長する。


高校に生きながら連載を勝ち取ったとき、真城最高は毎日3時間睡眠で原稿を上げていた。
無理がたたって倒れて入院したとき、編集部は「何をしてでも原稿は止めない。週刊作家は休んじゃダメなんだ」と言う彼の意向を無視し、休載を決めた。

「高校に行きながら連載なんて無理だったんだ。作家に無理はさせられない」

という方針だ。

退院後、その方針を撤回してもらうために真城は編集部に乗り込んでこう言った。

おじさん、川口たろうは言ってました。
連載するまでは「うぬぼれ」「努力」「運」
連載を勝ち取ってからは、「体力」「精神力」最後は「根性」


f:id:hideyoshi1537:20190302175759p:plain


読みながらこれは仕事にも言えるんじゃないかと考えた。

仕事を始めるまでは「うぬぼれ」「努力」「運」
始まってからは「体力」「精神力」、最後は「根性」

みたいな。

これだけ言えるくらいの情熱持って働いてますかと言われると、全く自信がないのだが。


真城最高が中学の同窓会に呼ばれたシーンがある。
原作担当の同級生である高木秋人は用事があって行けなかった。

大学生になった元同級生たちがスノボだ合コンだと話をしてる中、漫画家として週刊連載をしている真城は全く遊ぶことはできなかった。
そんな暇がなかったのだ。

同窓会を一次会で後にして、帰りに原作の高木と会った。
そのとき高木秋人は「あしたのジョー」の名セリフを引用して真城に尋ねる。

「真城くんはさみしくないの?」

「同じ年頃の青年が海に山に恋人とつれだって青春を謳歌してるというのに......」

「シュージンのいう青春を謳歌するってこととちょっと違うかもしれないが

燃えるような充実感はなんどもあじわってきた」

「インクだらけの原稿の上で」

「そこいらのれんじゅうみたいにブスブスと不完全燃焼してるんじゃない」

「ほんのしゅんかんにせよ
まぶしいほど
まっかに燃え上がるんだ」


『バクマン。』の面白いところはこういう名作の引用がたびたび出てきて、漫画好きの心を震わせるところだ。

不完全燃焼ばかりしている自分は泣きながら一気に読んでしまった。

社会人になって「自分こんなはずじゃなかったのになあ」みたいに高い意識の欠片みたいのがくすぶっている人はぜひ騙されたと思って読んでみてほしい。

ぐっと響くものがあって、やる気が出てくるに違いない。


関連記事:ジャンプの傑作「Dr.STONE(ドクターストーン)」は何が面白いのか、ストーリーで語る