橘玲先生の『言ってはいけない』では、進化生物学を根拠に、人間の能力がどれくらい遺伝によって決まるかを論じている。
論理的推論能力の遺伝率は68%、一般知能の遺伝率は77%とされていて、頭の良し悪しの7〜8割は遺伝で説明できるという。
かつて3男1女すべてを東大理Ⅲに合格させた佐藤亮子ママが話題になった。
彼女は今、受験界のカリスマお母さんとして書籍を9冊ほど出しており、実は僕も一冊持っているのだが、そこには受験勉強の心構えやテクニックが書かれていた。
しかし僕が見た限りでは
「私の子供が東大理Ⅲに入った成功要因の8割は優秀な遺伝子によるものです」
という記述はなかったはずだ。
しかしどう考えても、4人の子供全てが東大理Ⅲに合格するくらいなら、その頭脳は遺伝によるものが大きいと思われる。
ちなみに佐藤亮子ママは津田塾大卒の英語教師、父親は東大卒の弁護士である。
なので仮に他の家庭の子供が佐藤ママのやり方を真似したところで、東大理Ⅲに合格する可能性は低いはずだ(ゼロではないが)
さて、受験界のトップ・オブ・トップの東大理Ⅲに入る頭脳はおそらくは遺伝によるもので、他の人が努力したからといって真似できるものではないだろう。
佐藤家の場合は親も高学歴だ。
しかし頭では遺伝の重要さはわかっていながらも、「能力は遺伝によって多くが決まる」という説が述べられているとき、僕は少なくとも2つ考えてしまうことがある。
ひとつ目は、そもそも親は自分の能力をどこまで引き出していたのかという点。
「運動音痴の親の子供は運動音痴になる」
というのはたしかにその通りだろうと納得できるが、その親は小さい頃から全く運動しなかっただけだったりしないだろうか?
つまり、運動ができるようになるまで時間を投入しなかっただけなのでは?
とも考えてしまうのだ。
これは僕のスポ根系の価値観が影響している可能性が高いのだが、そもそも「能力の限界値」まで引き出してないと、「遺伝的にダメかどうか」ってわからないんじゃないの?と。
何もやらないで人より優れた成果を出せるのは小学生までで、それ以降は努力の差が如実に結果に出てくる。
一日5分も勉強しない医者の息子よりも、毎日5時間正しいやり方で勉強する中卒ヤンキーの息子の方が成績は良くなるはずだ。
それにプロ野球選手やプロ棋士のレベルまで行けば遺伝による差で決まってくるのかもしれないけど、
そもそも遺伝で勝負が決まるレベルの世界で闘ってる人って世の中にほとんどいないんじゃないのかな。
もう一つは、「能力は遺伝に影響を受ける」のが正しくても、僕たちにその限界値を知る方法はないということだ。
全てを遺伝のせいにして、「親が優秀だから僕も優秀でござる〜」なんてサボってばかりの人生を送っていたら、ほとんどの人間はダメになるだろうし、
全てが遺伝のせいだとしても、僕たちにできることは昨日の自分よりも今日の自分を良くすることだけだ。
いま適当に作ったのだが、個人の能力は以下のような方程式で決まってくるのではないだろうか。
能力 = (遺伝によって決まる係数) × (努力) + (初期値) + (年齢による増減)
遺伝的に適正があるものは初速が違う、というのは僕もたびたび感じていることだ。
たとえば、僕は昔から国語のような文系科目ではあまり苦労したことはないが、高校以降の数学は勉強しても理解が進まなかった。
初速が稼げる適正のある能力については
「できるから楽しい」→「楽しいから時間をかける」→「時間をかけるから伸びる」
というように、成長させていきやすい。
逆に初速が出ない(=おそらく遺伝的に向いてない)ものについては、
「できないからつまらない」→「つまらないからやらない」→「やらないからさらにできなくなる」
という負のループが回る。
その初速が出ない能力が現代社会で重要な数理的な能力や論理的な思考力の場合は「知識社会」では不利に働いてしまうのだろう。
そして個人的な経験なのだが、苦手だった数学も高校3年になってものすごく優秀な友達に教えてもらったら嘘のように理解できるようになった。
僕が高校1年生であたった数学教師に教わった生徒の多くは数学が苦手になっていたから、そもそもその教師の教え方が下手だった可能性も高い。
つまり、遺伝によってダメだったのか、歩んできた道が間違っていたのかは判別がつきにくく、能力が開花するかどうかは
「正しい師に出会い、正しいやり方で努力を重ね、能力を発揮できる場が与えられるかどうか」
という運の要素も大きいのではないかと考える。
このように考えれば考えるほど、遺伝が能力に影響するのは間違いないのかもしれないが、
「それがどうしたというのだ」と言って、自分は自分のできる限りのことをやるのが人生戦略としては正しいことがわかる。
- 作者: 橘玲
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