『WILL POWER 意志力の科学』が出てから、
「意志力は消耗する」
と言われてきた。
『WILL POWER』は一度読んだことがある。
人は何かを決断するたびに意志力が消耗されていき、意志力が枯渇するとガソリンがなくなった車のように行動力が落ちてしまう。
意志力は無限ではないので、余計なことに決断力を使わないようにしよう。
習慣化することで意志力の消耗は抑えることができるので、良き習慣を作ろう、といった内容だったと記憶している。
スティーブ・ジョブズが毎回同じイッセイ・ミヤケの黒タートルを着ていたり、マーク・ザッカーバーグが「世界を変えること以外に決断力を使いたくない(キリッ)」と言ってグレーのTシャツばかり着ているのは有名な話だ。
彼らほどの偉人でなくても、意志力の消耗を抑える意味はある。大事な仕事に集中できるからだ。
ではどうやって意志力の消耗を抑えることができるのだろうか。
「決断の機会を減らす」とはよく言われているが、僕なりに色々と考えた結果、「意志力の節約」というよりは「脳のワーキングメモリの消耗を抑える」と考えた方がしっくりくるように思えた。
ハードディスクとメモリ
いまキーボードを叩いているパソコンには「ハードディスク」と呼ばれる情報を長期に記憶する場所と、「メモリ」と呼ばれる短期的に情報を記憶する場所がある。
コンピュータが何か作業をするときは、ハードディスクから情報を取り出し、メモリに読み込む。
なぜメモリに読み込むのかというと、メモリは読み込みや書き込みが素早くできるからだ。
ハードディスクから情報を読み込むよりも数倍早く情報を処理できる。
その代わり、メモリにはたくさんの情報を詰め込んでおくことはできない。
脳にも長期記憶と短期記憶と呼ばれる機構があって、これはちょうどパソコンのハードディスクとメモリのような関係になっている。
人が何か情報を見たとき、まず短期記憶と呼ばれる部分に情報が書き込まれる。
短期記憶で何度も繰り返し使われたり、生存に必要だと判断された情報は長期記憶に保存される。
この短期記憶の概念を少し広げ、脳のメモリ的な部分を「短期的な記憶」だけでなく「短期的な作業領域」として捉えたのが「ワーキングメモリ」という概念である。
ワーキングメモリはどのタイミングで消耗するのか
観察や調査を通じた研究結果ではなく、僕の経験則を述べていく。
人間のワーキングメモリはコンピュータのメモリと違って、「使えば使うほど消耗していくもの」のように見える。
そしてその消耗は睡眠によって回復する。
睡眠不足だとワーキングメモリの消耗を回復させることができず、またワーキングメモリの容量自体も小さくなるようだ。
ディスプレイが小さかったり、作業する机が小さいと作業効率が落ちるように、ワーキングメモリの容量が小さくなると人間の処理能力は落ちる。
それゆえに十分な睡眠時間の確保は大切だ。
コンピュータはアプリを立ち上げるなどのアクションを経てメモリに情報が読み込まれていく。
人間の脳の場合、目から入った情報がメモリに書き込まれるのではないか。
大量の本を買って本棚に並べ、机の上に「読みたい本」が散らかっているとする。
それらの本が目に入るたびに脳のワーキングメモリに情報が読み込まれ、ワーキングメモリを圧迫する。
TODOリストも良くない。
いくつものTODOを並べておくと、そのTODOが気になってしまい、ワーキングメモリに残ってしまう。
目に入る雑多な情報がワーキングメモリの容量を食っていく。
雑多な情報を処理するたびにワーキングメモリを消耗する。すり減っていくと言ってもいい。
ワーキングメモリは使われるたびに消しゴムのように少しずつ削られ、タイヤのように摩耗していく。
脳の活動をフレッシュな状態に保つためには、
- 目に入る雑多な情報を減らす
- 不要な情報を処理する機会を減らす
必要がある。
ワーキングメモリを節約する方法
目に入る雑多な情報がワーキングメモリを圧迫することは上で述べた。
読まない本が大量に飾ってあったり、TODOリストに「やらなければいけないこと」を大量に並べていると、意識せずとも脳のワーキングメモリに読み込まれ、容量を食われてしまう。
机の上に物は散らかさず、部屋の物は少なくする。
服や靴も同じだ。
選択肢が大量にある中で「どれを着ようか」「あれを履こうか」と選び決断するタイミングでワーキングメモリを消耗させてしまう。
ミニマリストをファッションにしている人は愚かだと思うが、生活に必要な物を厳選するのは正しい。
物に囲まれた生活は落ち着かないし、散らかった荷物が目に入るたびにワーキングメモリが圧迫されてしまう。
そして僕の経験上、最もワーキングメモリを逼迫させるのは「人間の感情」だ。
恋をしたときに「好きな人」で頭がいっぱいになっている状態を思い出してもいい。
それより多いのが、ネットで人間の悪意に触れてしまうことだろう。
ツイッターを開き、頭がおかしい人間の悪意が目に入ると、暗い感情がじわりじわりと心に染み込んでくる。
こういった怒りや悲しみの感情は脳のリソースを大量に消費するように感じている。
怒りに触れてしまうと、その感情が脳に残ってしまうのだ。
通知を減らし、ブックマークを消す
脳のワーキングメモリを節約しようと考えてから、努めて通知を減らしてきた。
ツイッターは極力見ないように心がけ、Youtubeの登録チャンネルを全て解除した。
はてなブログの読者登録をやめて、ブラウザのブックマークは全て削除した。
スマホのアプリは本当に必要なもの以外は全てアンインストールした。
スマホやパソコンの背景も黒一色で、余計なものは目に入らないようにした。
Google Keepに大量にメモしていたブログの下書きも消した。
通知を減らし、関心を散らすものをなくし、シングルタスクで今目の前のものだけに集中できる環境を作ってみた。
そうすると、ブログを書きながらブラウザのブックマークから余計なサイトを開いたり、スマホを開くたびにYoutubeの登録チャンネルの更新をチェックすることもなくなった。
ブログやアフィリエイトをやっている人だと、アドセンスやアフィリエイト報酬、ページビューが気になっていちいちサイトを確認してしまうこともあるかもしれない。
ブックマークを消し去れば、そのような確認作業はほぼなくなった。
ツイッターは最も集中を阻害するサービスだが、一週間ほど旅行をきっかけに離れると、脳がツイッターの支配から解放された。
逆に言えばそれくらい強制的に距離を置かないと、ツイッターの呪縛から逃れるのは難しい。
シングルタスク
「一石二鳥」という言葉が好きだった。
しかしどうも仕事においては作業を並列にこなすとうまくいかない。
一度に一つの作業に集中する。
とにかくシンプルに、とにかく一番大切なものを、一つだけ。
一つだけに絞る段階で頭を使い、絞った後は一つだけの作業に集中することにした。
シングルタスクを心がけることで脳のワーキングメモリの使用量を節約でき、一つの作業の効率が上がった。
ちなみにだが、本を読むときに目の前にパソコンがあるとネットサーフィンしたくなって集中が阻害されるので、パソコンを使わないときは収納しておくことにした。
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地味だが机のスペースも広がって快適であった。
机を広く使いたい人におすすめしたい。
会社は作業に集中するようにできていない
会社ではチャットを使っている人も多いと思うが、あれは良くない。
少し前までは
「今どきチャットを使わずにメールを使ってる人間は時代遅れの老害」
くらいに考えていたが、今では逆に人間の集中力を著しく阻害するという意味で、チャットは毒にもなると思っている。
他人のやり取りが勝手に目に入り、脳のワーキングメモリを消耗してしまう。
オフィスのオシャレにして、他人と交流しやすいレイアウトにすることでイノベーションを促す、などという試みが流行っているが、あれも効果が疑わしい。どちらかというと他人の声がいちいち耳に入り、集中を阻害する悪影響の方が大きいだろう。
その他にも割り込みで会議が入ってきたり、隣の人間が大きな声で電話し始めたり、とにかく会社組織には、わざとやっているのかと疑いたくなるくらい集中を阻害する仕掛けが大量に潜んでいる。
そして少なくとも僕が見てきた職場では誰一人として、集中を阻害されることによる生産性低下に疑問を抱いている様子はなかった。
それが当たり前のものとして受け入れられ、当たり前のものには一切疑問を感じないように教育されているようだった。
それってイノベーションとは最も遠い姿勢なのではないだろうか。