俺の遺言を聴いてほしい

これは俺の遺言だ。

自分のことを「僕」と呼ぶ30代の男はぶっちゃけどうなの!?銀座で美女に声かけて聞き取り調査してみた。

むしゃくしゃする日曜の夕方だった。
約束していた予定はドタキャンされ、暇つぶしに行ったパチンコはボロクソに負けた。

美容室に行ったら予想の斜め上を行く髪型にされた。
道路を歩いていたら後ろからクラクションを鳴らされ、車の中からオッサンが僕を睨んだ。

僕はむしゃくしゃしていた。
どうしようもないくらいにむしゃくしゃしていた。

そんな時にふとツイッターを見た。


僕・・・?



僕・・・だと?



こっちも僕。



また「僕」だ。

藤沢数希からサマンサタバタまで、みんなが自分のことを「僕」という。
何かの陰謀のようにも思えた。



僕は常々思っていた。
いい歳したオッサンが自分を「僕」と呼ぶのはどうなんだろかと。
いかにもナルシストっぽいじゃないかと。
いかにもナルシストなのに、なんでどいつもこいつも人気者なんだと。
アルファツイッタラーなんだと。


そう考えるとさらにむしゃくしゃして、世の中の全ての不幸は、自分のことを「僕」と呼ぶキモいオッサンのせいな気がしてきた。


そう。
僕はなんとしても、いい歳して自分のことを「僕」と呼ぶオッサンに、「僕」がいかにキモいかを証明しなければならない。

これは僕に課せられたミッションのように思えた。
そしてこれは、僕にしかできないとも思った。

誰かが言わなければならなかった。
いい歳こいて「僕」はキモいよ、と。

しかし、敵はアルファツイッタラー軍である。
僕一人が世界の中心で「キモいキモい」と叫んでも彼らの心を打つことはできないだろう。

そこで必要なのが、美女の力である。
美女にキモいと言われたら、否が応でも認めなければならないだろう。

「僕」はキモいと。

ぼくは、いい歳こいて自分のことを「僕」と呼ぶオッサンがキモいことを証明しようと思う───





~自分のことを「僕」と呼ぶ30代の男はぶっちゃけどうなの!?銀座で美女に声かけて聞き取り調査してみた~


思い立ったが吉日。
無印良品有楽町店でノートとペンを購入した。


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さぁ、調査の始まりだ!


【1~3人目】 止まらない美女

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アンケートなど簡単だと思っていた。
気軽に声をかけて、答えてもらえばいい。
楽勝だ。


・・・甘かった。


すみません!
ちょっと銀座を歩く美女にアンケートしたいんですけど・・・

すいません、用事あるので。

立て続けに3人にヒラリと身をかわされ、今回のミッションが一筋縄ではいかないことを悟った。

みんな、冷たい。


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しかし、これは相手の立場に立って考えると自明のことだった。

たとえば自分が街でいきなり、

「よかったらアンケートにご協力ください」

なんて言われて、喜んで協力するだろうか?
いや、しないだろう。
時間の無駄だからだ。

話をしたいならば、楽しそうな雰囲気を醸し出さなければいけない。
相手の時間を奪うのではなく、自分の時間を使って相手にエンタメを提供するのだ。


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楽しそうに、でも怪しい訳でもない。
そんな声かけをする必要があった。

大丈夫。僕ならできる。
必ず、かの邪智暴虐の「僕」を除かねばならぬ。

諦めたらそこで試合終了だ。

僕は次のターゲットを探すべく、街を歩いた。


【4人目】 初めてのアンケート

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並木通りに舞台を移した。
有楽町駅は用事がある女の子が多い。
一人で暇を持て余している子はむしろ銀座の横道に多いと考えた。


休日の並木通りは夜と違って人通りもまばらだった。

前の方から金髪の女の子が歩いてくる。専門学校生だろうか?

すれ違いさまに声をかける。

ちょ!めっちゃ美人!

え、なんですか!?

めっっちゃ美人にだけアンケートしてるんですけど、3分だけ美女の時間もらってもいいですか?

(笑)いいですよw


快諾してくれた!

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ありがとう!
サイトの企画で、自分のことを「僕」と呼ぶ男って、女子から見て実際どーなのか、ってアンケート取ってるんですよ。

はい。

自分のことを「僕」と呼ぶのって、ぶっちゃけアリですか?


全然アリですよ。


え?


え?


「僕」でもいいんですか?


うん。親しくない時とか、僕がいい。

えっと・・・じゃあ、彼氏だったら?

彼氏なら俺かな~。俺の方が自信がありそうに見えるから。
でも僕でも別にいいですよ

えっと、たぶん、自分の年代の男の人のこと考えてますよね?(笑)
さ、30代の男が自分のことを「僕」と言ったら、どうでしょう?


えー!30代はダメ!俺で!

ですよね!よかった!

え?


では、今を生きる30代に何かメッセージお願いできますか?
ノートのこっち側に適当に何か書く感じで・・・。

えー困るな・・・どうしよう・・・



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おお、ニコちゃん!ありがとうございました~!

どうも~。

やっと一人、アンケートを取ることができた。
僕は意外とアリなのか?困惑を隠し切れない。

キモいという言質を取ろうという悪意に満ちたアンケートは、序盤から波乱の予感がした。


なお、美女には一切連絡先などを聞くことはなかった。

ナンパの神である永沢という男が言っていた。

「人の善意につけ込むナンパをしてはならない」

僕はその言葉を守り、そして身バレから自分を守るため、一切の下心を隠した。

アンケート結果だけが僕のリアルだった。

【5人目】 進撃の並木道

並木通りのアンケートはすこぶる快調だった。
用事のある子にとってはアンケートなどうざいに違いないが、一人で退屈そうに歩いている子にとっては、意味不明なアンケートは良い暇つぶしになるのかもしれない。

いずれにしても、僕にとってはありがたいことだった。
今度は、20代OLと思われる女性が立ち止まってくれた。

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たとえば会社の30代の男の人が自分のことを「僕」と呼ぶのはどう思います?

え、全然アリです。むしろいい。

か、彼氏が「僕」でもアリっすか?

全然気にしないです。「僕」でいい。

そうなんですか、いや実はボクも、「僕」がいいなと思ってたんですよ!
やっぱりボクですよね、ハハハ。
ところで、30代男性に向けたメッセージをこのノートに書いてくれませんか?

や、それはちょっと・・・

ですよね!すみません!ありがとうございました!


おかしい。

完全に誤算である。
何度でも言うが、俺は自分のことを「僕」などと呼ぶオッサンはキモいと思っていた。
漂うナルシスト臭、そして加齢臭

動かぬ証拠を突きつけて、「僕」はキモいよと全世界に発信したかった。


おかしい。


世の女性は、意外にも「僕」を嫌がっていないようである。
完全に誤算だ。これじゃ俺はピエロだ。


まだ確信が持てなかった。
もっとデータが必要だ。大丈夫。今、僕はノッている。
データはすぐに集まるはずだ。

高笑いしながら銀座を歩いた。


【6~8人目】折られた心

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驕れる者久しからず
ただ春の夜の夢のごとし

僕は驕っていた。
女に飯を奢るのは毎回だが、今回は気持ちが驕り高ぶっていた。

どうせ、女の子は話を聞いてくれるだろうと。


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甘かった。
途中、絶対に、絶対に考えてはいけない言葉が脳裏をよぎる。


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なぜ、俺はこんなことを・・・

高校時代を後悔した三井寿のごとく、銀座で誰に頼まれたわけでもなく謎にアンケートする自分を後悔する。


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・・・やめてしまおうか?

・・・否!


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俺は最後までやるぞォ!
場所を移して気合を入れ直す。

何のためになるかはわからない。
もはや俺は目的を見失っていた。
広い銀座で迷子になっているかのようだった。

【9人目】 木漏れ日の中の天使

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場所を変えて仕切り直しする。

辺りを物色していると、ふと・・・とても良い香りがしたような気がした。

背筋をまっすぐに伸ばし、銀座の横道を歩く。
迷いの無い後ろ姿だった。

僕はそのオーラを恐れながらも、勇気を出して近づく。


こ、こんにちは!

はい


か、可愛い!
なんて可愛いんだ。と、東京姉妹?

銀座の人混みの中、この方だけ木漏れ日の中にいるようだった。


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あ、あの、銀座を歩く美女にちょっとアンケートしておりまして!


クスクス・・・と笑う。
笑い方がとても上品だ。
彼女は東京姉妹ではないと確信した。


ちょっとだけお話聞いてもよろしいですか?


・・・。


ニコッ


はい・・・!いいですよ!


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ま、眩しい!
なんて眩しいんだ!
なんで君は、美女のくせにこんなに優しいんだ!


30代の男って、自分のことを「俺」と呼んだり、「僕」と呼んだり、「私」と呼んだり・・・。
ぶっちゃけ、女の人から見て30代は自分をなんて呼ぶといいものか、聞いてみたかったんです。


そうですねぇ。

木漏れ日の美女はゆっくりと口を開き、語り始めた。


まず・・・「俺」だと気にならないですね。
世の中には「俺」人口が多いですから。

そんな中で、ナチュラルに「僕」と言える人がいたらかわいいな、と思います。
自然な「僕」は素敵です。


なるほど。
プライベートだったらどうでしょう?


お姉さん彼氏いるんですか?と聞きたい気持ちをグッと抑える。
このままお茶に誘ってしまいたかった。永沢さん、男は辛いよ。


彼氏だったら・・・。そうですね、俺だと気にならないです。
でも個人的には、「僕」も嫌いじゃない。

それもキャラによりますね。
自然と「僕」が出る人はすごく上品だな、と思います。


丁寧に答えてくれて本当ありがとうございます!

さ、最後にお願いなんですが・・・

世の中の30代の、それもモテたくて頑張ってる独身のサラリーマンに、一言でいいので、エールというか、メッセージをお願いできますか?


・・・はい、いいですよ!


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男性は、30歳からこそ格好いい!
ますます輝いてください!!


天使かお前は!

しかも達筆!

もう僕でも俺でも私でもなんでも良くなってきたわ。
なんでもいい!


俺たちは仕事を・・・!
仕事を頑張ろう!

ありがとうありがとう。本当にありがとう。

30代からこそ格好いい。
男はこれからだ!

三十路だって大丈夫!こっから輝いていこうよ!頭以外で!


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【10~15人目】 忘れかけていた痛み

美女にパワーをもらって再び銀座の街を歩き出す。

僕はあともう2人、合計5人の美女の意見を集めたいと思い、声をかけ続けた。

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途中、退屈そうに歩いている女の子が、歩きながら答えてくれた。

男は自分のこと、なんて呼べばいいかな?

「俺」!

ありがとうございましたと会話を終わらせる。

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その後は、誰も足を止めてはくれなかった。


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美女と話して慢心していたのかもしれない。

絶不調だった。
誰も相手にしてくれなかった。

半年くらい前まで、僕はよく街でナンパをしていて、そのときは誰に無視されても何も傷つくことはなかった。
心に重たい鎧を着て、傷つかないように、自分を麻痺させながら声をかけていた。


女の子に無視されるって、傷つくんだな。


自分を守っていた殻を捨てて、素のままの自分で、人と話す。

生身の自分は繊細で、ちょっとしたことにも傷つきやすい人間だったんだ。
そして、これが人と「生身でぶつかる」ってことだったんだよな。

当たり前のことに今更気付いた気がした。
この痛みを忘れないようにしたい。


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【16人目】 靴が脱げたシンデレラ

有楽町に戻り、ブラブラと歩いていた。
もう帰ってしまおうかと弱気になり、虚ろな目でデパートの入口でボーッとしていた。

すると、目の前で突然、女の子の靴が脱げた。


大丈夫ですか!?

白々しく声をかける。
顔を上げた女の子は、美女だった。


照れ笑いしながら答える。

はい、大丈夫です(笑)

めっちゃ靴脱げてましたね(笑)

びっくりしましたw

美女はそのままデパートの中に歩いて行く。

ここしかない・・・!


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あの・・・!

はい?


いま、実はとあるウェブサイトの企画でアンケートしてまして!

はい。

一瞬だけ、ほんの少しだけ、お時間もらってアンケートしてもいいですか?


・・・・。

ニコッ


いいですよ!笑


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30代の男って、自分のこと色んな呼び方するんですよ。
僕だったり、俺だったり、私だったり。
で、美女から見て、どんな呼び方する30代男がいいのかなって。
なんかこう、好みってあります?


もはや恒例ではあるが、仕事を丸投げするダメな上司さながらに、曖昧な質問を投げた。


えっとですね、私は「僕」がいいです。


それは、会社でもプライベートでも?


はい、「僕」がいい。
だって、育ちが良さそうじゃないですか!


もはや「僕」がアリなことは疑いようのない事実だった。
この子も、まごうことなく美女だ。
色んな男性にデートに誘われ、たくさんの男の人を観察してきた結果、「僕」でいいと言っているのだろう。


ありがとうございます!
最後に・・・最後になんですが・・・
今を一生懸命生きている30代の男性に向けて、何か一言、メッセージをいただけますか?


(笑)
どうしよう、困ったな。
わかりました。


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仕事がシュミという人がすてきです。


彼女は迷いなく、まっすぐな目で言った。

30代は仕事やってナンボです。
仕事ができる人が、カッコイイと。


オジサンよ、大志を抱け。

誰に頼まれるでもなく銀座を歩き、何の意味があるかわからぬまま女の子に質問し続けた。

そしてたどり着いた結論は、



自分のことをなんて呼ぶかなんて関係ない。
僕でも俺でも私でも、なんなら僕ちゃんだっていい。


30代は、仕事で輝いてナンボ。

仕事ができる30代は、カッコイイ。


当たり前の事実に、当たり前に気付かされた。
彼女たちの言葉は嘘偽らぬ本音だったと思う。


30代は、とにかく仕事を頑張れ。
欲しいものは、きっと後からついてくる。


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それが銀座を歩いて手に入れた、俺なりの結論だった。


オジサンよ、大志を抱け。

仕事を頑張る30代は、きっとカッコイイ。