読者です 読者をやめる 読者になる 読者になる

俺の遺言を聴いてほしい

これは俺の遺言だ。

ストリートナンパをすると謙虚になれる。

自分がモテると思い始めたら、ストリートナンパをしてみるのがいい。
謙虚な気持ちになれる。

私は勘違いしていた。
もしかしたら自分がモテるんじゃないかと。

クラブやナンパ活動をやめた後、友達のつながりで出会う女の子は、皆優しかった。
そして、優しさに優しさで返していれば、自然といい関係になれた。

それは単に、私が年を取って、周りが年上扱いしてくれていただけだったんだけど、どういうわけか、自分がモテるんじゃないかと勘違いしてしまったわけだ。


先週、忘年会の帰りに酔っ払って気持ちが強くなってしまい、帰り道に一人でストリートナンパをしてみた。

血沸き肉踊るこの感覚は久しぶりだった。
遠い日を思い出し、かつて貪るように読んだ、日本で最も有名なナンパブログのお決まりのセリフをつぶやく。


「さぁ、ゲームの始まりだ」


銀座の街で「こんばんは」と声を掛け、「一杯どうですか」と誘ってみる。
恐ろしくつまらない会話を投げかけてしまい、女の子は迷惑そうだった。

昔はどんな風に話しかけるかを必死に考えて、色々と研究してきた気がするけれど、全部忘れていた。
何を言えばいいのかもわからない。

私のゲームは一向に始まらなかった。

それから30分くらい街を徘徊し、なんやかんやでチマチマと声を掛けて、暇そうな女の子にコーヒーを奢り、LINEを交換した。

綺麗な二重まぶたが印象的な子だった。

自分よりずいぶん若い子と連絡先を交換し、有頂天になって帰宅した。


翌日。

その子からLINEが入った。

「今日は渋谷に行きます」

トーク画面のその文字を見た時、私は既読をつける前に一度、深呼吸をした。

すぐに返信してはちっぽけな男になってしまう。
一度、スマートフォンを置き、家の近くの公園でダッシュして、シャワーを浴びてから返信した。

「飲みに行きましょう」


17時に渋谷で待ち合わせ、出会い頭に

「焼肉を食べたい」

と言われたが、私はおじさんの貫禄を出して、

「好きな店に行きなさい」

と言った。

その貫禄は、若者を支援する平成の足長おじさんと言っても過言ではなく、すなわち私は歩く財布のようになっていた。

店に入り焼肉を食べ、軽くお酒を飲み、なんだか楽しそうな顔をしている(ように見える)女の子を見て、


もしかしたら、ワンチャンあるんじゃねえか


と期待した。

女の子がトイレに行っている間に会計を済ませる。
...つもりが、タイミング悪くなぜか素早く帰ってきやがったので、目の前で会計するハメになった。

普段使っているAmazonカードは封印し、あえて普段使っていないアメックスのゴールドカードを取り出す。

20代前半の小娘に、財力の違いを見せつけるためだった。

しかし、僕のカードに見向きもせず、彼女は一分を惜しむかのように、ケータイをいじり始めた。
水色の画面が見える。どうやらツイッターのようだ。

身バレは避けねばと警戒心を強める。


支払いが終わり、

「二軒目に行く?」

と聞いた瞬間、彼女は言った。

「行きたい店がある」

彼女は、店を出て、まっすぐに109の方向に歩き始めた。

人生で初めての109。
ここがラブホテルだったらいいのに、と思ったが、店の中にいるのは女ばかりで、男、否、オッサンは私一人だけであった。

そして二階に上がって、謎のパステルカラーのコートを見て、彼女は言った。



「サンタさん、コート買ってほしい」


今までに見たこともないような、上目遣いで私を見つめた。
なんとしても私にコートを買わせようという強い意志が感じられた。

その目を見た瞬間、私は自分の置かれている立場がATMそのものであることに気付いた。
改めて自覚させられたと言ってもいい。


彼女はたしかに可愛かった。
それでも、いくら可愛いからと言って、出会って2回目でコートを買うのはあまりにも...あまりにも理不尽なのではないか。
しかし、出会って15秒で合体するセクシービデオもあることだし、何が正解なのかはわからなかった。

ただ一つ確実なのは、私が合体する可能性は限りなくゼロに近いということだけだった。

私は天を仰ぎ、数秒逡巡した後、小さな声で答えた。

何か大きな力に後押しされるように、私をサンタに仕立て上げようとする彼女の目をまっすぐに見て、言った。


「その顔は可愛すぎてむかつく。ここは変顔でいこう」


彼女は「は?」と言うと、また違うコートを見始めた。

109を出る。
クリスマス直前の渋谷の街はどこか浮ついていて、街は幸せそうなカップルで溢れていた。

渋谷駅を美しく彩る青いイルミネーションは、渋谷を歩くカップルを祝福し、ATMに成り下がった私を哀れんでいるようにも見えた。


振り返って彼女に感謝を伝える。

「今日はありがとう。疲れたから、帰るよ」

彼女は「えーコート買ってくれないの?」と言ってきたので、私はその言葉を遮り、こう言った。


「その顔は可愛すぎてむかつく。そこは変顔でいこう」


「では、また」

私はまっすぐに駅に向かった。
まだ早い時間の渋谷駅から、これから待ち合わせに向かうであろう男女が吐き出されてきた。

お前たちは私の屍を乗り越えて頑張ってくれ、と願った。


自分が調子に乗っているな、と感じたときは、ストリートナンパをしてみるのがいい。
謙虚な気持ちになれる。

私は勘違いしていた。
もしかしたら自分がモテるんじゃないかと。

しかしそれは、自分がこれまで積み重ねてきた「努力と実績」という下駄を履いた結果であった。

人は積み重ねた実績の下駄を履いて生きていく。
下駄が高くなると、周りの扱いも変わってくるし、年とともに自然と高くなる部分も少なからずある。

もちろん、その努力は否定される類のものではないけれど、少し自信過剰になったときは、その下駄を脱ぎ飛ばして、外に出てみるのがいい。

女関係だったらストリートナンパに出てみるのがいいし、
仕事関係だったら、社外の交流会や、転職市場に出るといい。
あるいは、自らの手でお金を稼いでみるのもいいかもしれない。

一度飛び出すと、驕っていた自分に気付き、謙虚な気持ちになれる。