俺の遺言を聴いてほしい

これは俺の遺言だ。

僕たちは競争ジャンキーになっていたのかもしれない。


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同じ高校に、不細工なのに常に彼女がいる男がいた。
毛利という男である。


毛利は校内では全くモテなかった。
当たり前である。

毛利は親友だが、ひいき目に見ても、女子にモテる要素は何一つなかった。

ある日廊下で携帯電話を拾い、持ち主を調べるために携帯電話の中を覗いてみた。
そこには驚くべき映像が写っていた。

毛利と裸の女子が笑顔で写る待受画像が設定されていたのである。

「お前、犯罪に手を染めたのか?」

携帯電話を渡しながら聞くと、毛利は事も無げに答えた。

「何言ってんの。彼女だよ」

当時童貞だった僕は驚いた。

「なぜお前の横にこんな子が写っているんだ?」

僕が童貞なのに、なぜお前の横に女がいるんだボケ、と言いかけて口をつぐんだ。

「エロい子なんだよね」

毛利は誇らしげに答える。

「どこで出会った」

「スタビだよ」

「スタビ?」


スタビとはスタービーチの略で、携帯電話がパカパカだった頃に流行っていた出会い系サイトだった。

毛利はあまりにも完璧に不細工だったが、常に女の影をちらつかせていた。
僕は童貞で、毛利はたくさんの女を抱いていた。

僕は毛利の秘密を知る、数少ない人間だった。



★ ★ ★


大学2年のとき、再び毛利に遭遇した。
例のごとく、また女と歩いていた。


「毛利、ちょっと今度飲まないか?」

「いいよ、ヒデヨシ君と飲むのは初めてだね」

安い大衆居酒屋でビールを頼む。
この頃はまだ、ビールの美味しさをわかっていなかった。

ビールは仕事の後に飲むのが旨いんだと、社会人になって知った。
学生が飲むビールは、ただの麦芽に過ぎない。
一方、社会人が飲むビールは、日々の疲れを洗い流す聖水である。


「毛利...なぜお前は、毎度毎度彼女がいるんだ?」

苦いビールに顔をしかめながら、本題に入る。

「ヒデヨシ君は毎週毎週合コンに行ってるみたいじゃん。チャラそうな仲間と」

「ああ、多い時は週に3回は合コンしてるな。大学でもチャラそうな奴はだいたい友達だ」

毛利は不敵に笑う。

「それがダメなんだよ」

「なんだと?」

「ヒデヨシ君は、チャラそうな奴と合コンして、いつも幹事をやって、自分は何か得したのかい?」

たしかに毎回家を提供し、店を探し、スケジュールを調整し、可愛い女子大生を集めても、お持ち帰りするのは決まって友達のイケメン共だった。
僕は一人家に取り残され、片付けをしていた。
酔っぱらいに自宅のトイレを破壊されたこともあった。

余談だが、大学の時の飲み会なんてものは、ほとんどが宅飲みである。
店で飲む金などないし、飲むお酒も焼酎をコーラで割ったもの。
つまり、ただ酔うための酒だった。

コール選手権よろしく一気コールを掛け合い、潰れるまで飲み続ける飲み会はとても楽しかったが、確実に寿命を削っていた。
時間の感覚のない大学生だからできる飲み会だったのだろう。

相手の女の子に合コンのオファーを出す時も、

「めっちゃイケメン来るから!飲み会しよ!」

という誘い方をしていたため、当然毛利は呼ばなかった。
毛利は不細工だからだ。


毛利は僕を憐れむような目で見て、笑う。

「お前本当は、セックスがしたくてしかたがないんじゃないのか?」

「......!!」


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僕は毛利という男を侮っていた。
ただのキモオタだと思っていたのに、はるか別の次元に行ってしまっていた。

「セックスに関してお前に偉そうに言われる筋合いはない。だが、なぜお前に女が途切れないのか、俺は理由が知りたい」

「mixiだよ」

毛利は迷うことなく答えた。

「mixiで、出会っているんだ」

たしかに、毛利はマメに日記を書く男だった。
毎回日記を更新し、コメントを返していた。

マイミク数にはたしか1000人という上限があった気がするが、毛利は常に上限ギリギリまでマイミクがいた。
毛利が言うには、mixiでコメントを付けてくれた女の子にメッセージを送り、その中のいい子と出会っているのだという。


「お前はそんな不埒な用途でmixiを使っていたのか?」


半ば呆れて毛利に尋ねた。
当時の僕にとって、mixiは汚してはいけない神聖なものだった。
身内の交流を楽しむものだった。


毛利は事も無げに答える。


「僕はツールを利用しただけだ。イケメンと競争する奴が馬鹿なんだ」


ビールを流し込み、毛利と別れた。
毛利の言葉は僕の胸に深く刺さったまま、10年近くの時が過ぎた。


ツイッターのTLで紹介されていたのをきっかけに、「ZERO to ONE」という本を読んだ。

僕の中で点と点がつながった瞬間だった。


「ZERO to ONE」の著者、ピーター・ティールはこう述べている。


「競争的な生態系は人々を追い詰め、死に追いやることもある」


毛利は徹底的に競争を避けていたのだ。
スタービーチという出会い系に入り浸り、神聖なmixiを出会い系として使い、mixiに陰りが見えると速やかにモバゲーを極め、ニコ生主になり、ツイッターでナンパした。

世の中に溢れる幾千の1行スケベクソリプ馬鹿とは異なり、毛利はひとりひとりの女性に対し、心を込めて温かいリプライを送った。

そして、毛利は不細工・チビ・眼鏡という何もないゼロから、1人の彼女を生み出したのである(0 to 1)

それに比べて、出会いを求めて銀座・六本木をさまよい歩くサラリーマンのなんと愚かなことだろう。
クラブでイケメンと競い合い、疲弊し、朝方に残り物のような女をお持ち帰りし、結果を誇る。

コリドーでたくさんのナンパ師と競いながら女に声をかけ、冷たい視線を浴びせられながら、やっとの思いで女を店に連れ出し、酒を奢る。

その裏で、毛利は誰とも競争することなく、新たな手法で女を探しているのだ。


毛利のようになるにはプライドを捨てなければいけないが、真面目に婚活するなら数を競争しても仕方がない。
ジャンクな出会いを量産しても仕方がない。
消耗戦の行き着く先は、死だ。

毛利メソッドは生半可な覚悟では会得できないし、そもそも常人にはプライドが邪魔して毛利のようにはなれない。
でも、消耗戦を抜け出す方法は他にもきっと、たくさんある。


「ZERO to ONE」にはこう書かれている。

トルストイは『アンナ・カレーニナ』の冒頭にこう綴った。
「幸福な家族はみな似かよっているが、不幸な家族はみなそれぞれに違っている」。

企業の場合は反対だ。
幸福な企業はみな違っている。それぞれが独自の問題を解決することで、独占を勝ち取っている。
不幸な企業はみな同じだ。
彼らは競争から抜け出せずにいる。


僕は最後に、こう綴ろう。

幸福な婚活はみな違っている。
それぞれが独自の価値観でお互いを認め合うことで、パートナーの独占を勝ち取っている。

不幸な婚活はみな同じだ。
彼らは画一的な他人の評価ばかりを気にして、競争から抜け出せずにいる。


ゼロ・トゥ・ワン―君はゼロから何を生み出せるか

ゼロ・トゥ・ワン―君はゼロから何を生み出せるか