「沈黙のWebライティング」 はウェブライター必読の書



「沈黙のWebライティング」 episode5より


経営不振に陥ってしまった旅館を立ち直すため、サツキとムツミはウェブサイトのテコ入れを行っていた。

ウェブからの集客を向上させるための方向性が見出だせず、四苦八苦していたところに現れたのが、

世界最強のWebマーケッター、ボーン・片桐

であった。


「オウンドメディアを立ち上げるんだ」


ボーンはサツキとムツミに宿題を出す。

オウンドメディアとは、自分たちの会社で立ち上げたWebサイトのことである。


ボーンはオウンドメディアを集客の「導線」にしようと考えた。

出された宿題に対して、ムツミが出した答えは、


キュレーションサイトを作ること


であった。


美しい旅館の写真を他媒体から「引用」する。

『息を飲むほどに美しい!国内の美しすぎる温泉旅館写真まとめ』

と題してたくさんの写真をまとめることで、「温泉旅館」のキーワードで検索してくるユーザーのニーズに応えようとした。


自分の企画を発表するムツミ。

それに対し、ボーンは、

「お前のアイデアはダメだ」

と一蹴する。

「なんでだよ!」

と食って掛かるムツミに対し、ボーンはこう言った。



「お前は世の中のコンテンツに対する愛が足りない。

すなわち、“敬意”を払っていないのだ」


ボーン曰く───。


ムツミのアイデアには、コンテンツの作り手への敬意が欠けている、と。

世の中にあるコンテンツ、作り手の汗と努力の結晶だ。


たくさんの時間をかけて準備をして、経費を使って撮影した写真が、小さな「引用」の文字を添えて、他社のサイトに勝手に使われていたら、作り手はどう思うか?

作り手の思いを踏みにじる運営を行っているオウンドメディアに、世のクリエイター達は力を貸してくれるか?

法的にOKかNGかというのは、社会の枠組みの中では大切だが、人間として生きていく上でもっと大切なのは、"他人への敬意"だ、とボーンは言う。

クリエイターへの敬意を忘れずに、コンテンツを作っていくべきなのだと。


沈黙のWebライティング —Webマーケッター ボーンの激闘—〈SEOのためのライティング教本〉


* * *

「沈黙のWebライティング」を読んで、ネットの物書きに必要なものを考えました。

作り手への敬意が大切

「沈黙のWebライティング」で言われているのは、作り手への敬意についてです。

ほぼコピペで記事を量産していたキュレーションメディアが話題になりましたが、世の中のコンテンツには必ず作り手がいます。

写真を撮るために朝早くから準備して、車で現地に向かい、寒い中最高のタイミングを伺い、ここぞというタイミングでシャッターを切る。

そんな苦労の積み重ねの上に撮った一枚の写真を、知らない会社の宣伝に使われたら、カメラマンはどう思うでしょうか。


Webではなんでも簡単にコピペできてしまうので、他人の苦労にタダ乗りすることも容易です。

でも、そこで楽しようとしないで、作り手の苦労を想像すること。

クリエイターへの敬意と想像力があれば、作品は簡単にコピー貼り付けして良いものではないと気付くことができるはずです。

コンテンツに愛情を持つ

自分の体験からですが、自分が書くコンテンツに対しても愛が必要です。


芸能関係のニュースはGoogleで検索される件数が多く、ブロガー的には「おいしい」キーワードになっています。

僕はよこしまな考えで、芸能関係のニュースをまとめてみようとしたことがありました。5年前のことです。


「芸能人の名前+彼氏はいるの?出身地は?年収は?」


みたいなタイトルで、ググって調べた程度の内容をまとめて。


この時は、記事を書くのがめちゃくちゃ辛かった。


本当に興味があるものだったら、タイトルももっと熱が入ると思うんです。


「ファン歴5年の俺が、広瀬すずの本当の魅力を教える」


とか言いながら、ネットに載っていないような情報を圧倒的な情熱で書いていく。


書きたいモノへの愛がないと、オリジナリティは生まれないと思います。


少し前に話題になった健康系のキュレーションサイトでは、

「コピペの引用文 + 〜だそうです

という書き方で、Googleのコピペフィルタを巧妙に騙しつつ、記事を量産していました。


こういう記事を見つけたら嫌な気分になりますよね。

プロテインは一緒に摂取する食品によって、吸収速度を調整することができるのです。


■吸収の速い食品の場合

吸収速度の速い食べ物・飲み物には白米、パン、うどん...

(省略)

これらと一緒にプロテインを摂取することで、プロテインの吸収速度を速めることができるのだそうです。

これは問題となった医療サイト「WELQ」で書かれていた記事の一例です(原文は現在削除済)


もし、本当に興味があることなら、

  • 摂取したものを「吸収する」とはどういうことか?
  • なぜ、うどんや白米は吸収が遅いのか?
  • 吸収が速いものと吸収が遅いものの違いは何か?
  • 吸収の速さとは何か?
  • 吸収の速さとカロリー消費量に関係はあるのか?
  • 吸収が遅いとどんな効果があるのか?
  • 食べ物を吸収する時、身体の中で何が起こっているのか?
  • 血糖値はどう変化するのか?

などを、もっと掘り下げて考えるはずです。


人に情報を伝えるには、論理的な文章を書かなければなりません。


論理的な文章とは、読者の「なぜ?」に応える文章です。

論理的な文章を書くには、愛が必要です。

なぜなら、愛がないものには興味が持てないため、手間をかけて深く掘り下げて調べることができないからです。


たくさんの人が興味のある内容は検索ボリュームも大きく、ページビュー的には美味しいのですが、結局は興味の薄さが記事の薄さにつながり、長期的にはGoogleにも見抜かれると思います。


自分が好きなことや、自分が得意なことを掘り下げて書ける人が最強です。

得意な分野じゃなくても、書く内容に興味を持って、読者の「なぜ」に応えられるだけの根拠を見つける姿勢は必要だと思います。


ちなみに最近(2018年中盤から)のGoogleは愛と情熱を持った記事を上位に表示する傾向が強くなってきたように感じています。

読者への愛

ただページビューを増やすだけなら、読者を考えるよりもGoogle受けを考えた方が手っ取り早いです。


【新社会人必見!】新卒が絶対読むべきオススメビジネス本20選!

みたいなクリックされやすいタイトルで、内容はAmazonレビューのコピペみたいな記事を量産すれば、いくつかは「はてブのホットエントリ」に入り、そのうちいくつかはGoogle検索の上位を取ることができると思います。


検索上位を取れば、一定期間の間は検索流入が期待できます。


こういうタイトルの記事でもコンテンツがしっかりしていれば何も問題ありませんが、

中には売れそうな本のアフィリエイトを貼りまくっているだけで、読者にとってなんら有用な情報がない記事もあります。


5年前。

ブログの方向性を試行錯誤していた頃、別のブログで

「物を売ること」

を目的に記事を書いたことがありました。


「商品ありき」

で記事を書いて、適当に調べてポイッと投稿。


そういう記事は、全然文章に魂が入らないし、紹介も適当になってしまいます。


魂が入ってない文章が読者のためになっているとは言い難く、インターネットのゴミとなっていました。


読者への愛が大事です。

  • 何か一つでも「有用だったな」と思ってもらうこと。
  • 何か一つでも「面白かったな」と思ってもらうこと。


そういう「何か」を届けられると、自分自身が納得できる記事を、書き続けることが大切だと思ってます。

一番の読者は自分です。

自分が自分の作品の一番のファンにならなければいけません。

そして、一番のファンがガッカリするようなモノを作っていてはダメです。


自分が自分にガッカリしてしまう。

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金への執着と自己愛を抑える

Webで物を売ってお金を稼ぐことは悪ではありません。

ただし、金銭欲が先に来るとコンテンツは薄くなりがちです。

気持ちが読者に向いていないからです。


かつてプロブロガーとして有名になった人が、怪しいアフィリエイトを紹介するだけの記事を量産し始めたり、

ツイッターで有名になった人が中身のないnoteを売りさばいたり。


金儲けが先にくると、コンテンツが腐ってきてしまった例はたくさんあります。


あくまでコンテンツが先。

お金はおまけでいいんです。


僕は、

「ユーザーのことを考え抜いていれば、お金は後からついてくる」

というGoogleの哲学がすごく好きなのですが、これはネットのコンテンツ全てに言えることだと思います。


ユーザーのためになるコンテンツや、ユーザーが楽しむことのできるコンテンツを少しずつでも書き続けていれば、お金は後からついてくる。

まずはコンテンツの質を高めること。

まずは読者の満足度を高めること。


これが大事で、それ以外は全部後からついてくるものなんです。


ちなみに自己愛がいらないのは、ベクトルが読者ではなく、自分に向きすぎているからです。



今回の記事を書くきっかけになった本です。

Webの物書きに必要な知識は全て、この本に書かれています。

ブロガーなら一度は読んでおきたい本です。


「ユーザーの求めるコンテンツをどうやって作っていくか?」というWebの物書きにとって永遠の命題を、ストーリーを通して学ぶことができます。

一度本を読んでおけば、今後書く文章全てに活きてきます。


そういう意味で、『沈黙のWebライティング』はライターとしての土台を作ってくれる良書と言えるでしょう。