僕たちは知らないうちに、命を奪われている。
毎朝眠い目をこすりながら7時に起きて、満員電車に揺られながら会社に通い、夜遅くまで働き、家に着くのは22時。
夜ご飯を食べ、風呂に入り、歯を磨くと自分の時間はほとんど残らない。
あっという間に一日が終わり、寝て、また出勤だ。
人生とは、時間のつながりだ。
そして僕たちは、限られた人生の時間を労働力として投入し、お金に変えて生きている。
利根川が言うように「金が命より重い」かどうかはわからないが、僕達が命の一部を金に変えて生きているのは紛れもない事実だ。
その考え方は貧しいかもしれないけれど。
そして、そんな命とも言える金を、誰にも疑問も抱かれずに、意識すらされぬまま、合法的に奪っている存在がある。
国家である。
会社で働くと、年末に「源泉徴収票」を受け取るはずだ。
僕は今まで、この源泉徴収票を見ても
「おー年収はこんくらいか。同世代の平均より圧倒的に低い!ハハッ!辛い!」
とか、
「せっかくだから年末調整でお金戻ってきたらいいなあ」
くらいしか考えていなかった。
とても呑気だったのである。
牧歌的とも言える(そもそも年末調整は払いすぎた分が戻ってきてるだけだ)
僕は今まで、源泉徴収票に書かれている言葉の意味をちゃんと調べることすらしなかった。
それでも困ることはなかったのである。
税金は会社が勝手に納めてくれて、意識しなくても生きていけるんだから。
そんな風に、いくら税金を取られているのかもわからぬまま、何年も社会人として過ごしてきた。
そして読者の中には僕と同じように、源泉徴収票の意味を考えたことがない人もいるんじゃないかと思っている。
今日はそんな人達のために、源泉徴収票の中身について、一緒に勉強したい。
そして、
「俺たち税金取られすぎやないか!国よ!無駄遣いは許さんぞ!」
という僕の熱い想いを共有したいのである。
これはネットで拾った源泉徴収票のサンプルだ。
これの
ここ。
左上の「支払金額」と書かれているところ。
これはいわゆる年収だ。
みんなが大好きな年収は、ここに書かれる額のことである。
会社が支払った額面金額(税金や保険料を引かれる前の額)がすなわち年収。
「年収1,000万以上の男がいい~♡」
なんて言う人は婚活界隈にたくさんいるが、「年収1,000万男」がどれくらい税金を取られているか知ってる婚活女子はあまりいないだろう。
その実態たるや悲惨なものである。
独身で何の控除もない年収1,000万男は実に200万以上の金を税金やら社会保険料やらで持っていかれているのである。
「支払金額」の横。
ここに「給与所得控除後の金額」と書いてある。
「控除」という単語を聞いて、「あー控除ね」と言える人はどれくらいいるだろうか?
そもそも、「給与所得」ってなんだ?
大学時代になぜか意識が高まって、ファイナンシャルプランナー試験の勉強をしたことがある。
その時初めて「控除」という単語を見たんだけれど、意味が全然わからなかった。
「控除」とは、要は「引き算すること」である。
たとえば、「支払金額(=年収)」が600万あったとして、そこから「税金を計算する上で差し引く分」が「控除」と呼ばれる。
なぜ、差し引くのか?
給与所得控除というのは、サラリーマンにとっての経費のようなものだと考えるといい。
「経費」と言うとまた、「なんじゃそりゃ」と思うかもしれないが、税金は基本的に、「収入から経費を引いて残った分」に色々計算して決まる。
経費というのは、事業を行うために必要な費用だ。
自営業の人がグレーな経費をガンガンを計上して税金を安くしてるのに対し、サラリーマンにはそういう真似はできない。
しかし、実際のところ、サラリーマンには経費が掛からないように見えて、仕事をするためにスーツを買ったり、書籍で勉強したり、色々とお金が掛かっている。
その分のお金を「給与所得控除」として差し引こうということで、給与所得控除分を収入から引き算されることになった。
この「給与所得控除」というのはうまいことできていて、こいつと「超過累進課税」という仕組みがあるおかげで、
ちょっと年収が上がったからといって、一気に所得税が上がる
なんてことは起こらないようになっている。
どういうことか?
所得税というのは累進課税である。
累進課税というのは、簡単に言うと、所得が増えれば増えるほど税率も高くなるというものだ。
言葉でいうより、表を見れば一発でわかる。
https://www.nta.go.jp/taxanswer/shotoku/2260.htm
こんな感じ。
所得金額が大きければ大きいほど、税率も上がるというわけだ。
でも、よく見てほしい。
「課税される所得金額」と書いてある。
そう!所得税は、
「所得に課されるもの」
なのである。
「収入に課されるわけではない」というのを覚えておいてほしい。
じゃあ、「課税される所得金額」って何?というと、
支払金額(年収) - 給与所得控除 - いろんな所得控除 = 課税される所得金額
となる。
僕は昔、ここを勘違いしていた。
所得税は累進課税だから、ある年収を境に一気に所得税が高くなるのではないか?
累進課税の「階段」の下で年収を押さえた方が、手元に残るお金は多いのではないか?
と。
それはもちろん間違いだ。
簡単なシミュレーションを見てみよう。
給与所得控除額は以下の通りで。
計算した結果は以下。
右側のピンクの枠で囲っているように、収入が増えれば、手元に残る金はちゃんと増えるようにはなっている。
もちろん、払う税金も多くはなるのだけれど。
年収6,500,000円の場合。
給与所得控除はここを見る。
そして、年収から引く。
年収(6,500,000) - 給与所得控除(6,500,000×0.2+540,000) = 給与所得控除分差し引いた額(4,660,000)
課税される所得金額(=給与所得控除分差し引いた額)が4,660,000円の場合、所得税率は「20%」となっているので、0.2を掛ける。
給与所得控除後の額(4,660,000円)×0.2=932,000円
そして、ここから「控除額」と書かれている分を引く。
給与所得控除後の額に所得税率を掛けたもの(932,000) - 控除額(427,500) = 所得税額(504,500円)
つまり、年収6,500,000円から所得税額の504,500円を引いたものが手元に残るお金(5,995,500円)だ。
さて、ここからはウンチクの話になるが、この計算には「速算表」を使っている。
この表の上の部分を見てほしい。
「速算表」と書かれている。
速算表とは読んで字のごとく、「簡単に計算するための表」のことだ。
逆に言うと、速算表を使わなければ、もっと面倒な計算が必要なのである。
所得税法の89条には税率についての記載がある。
そこによると、実際の計算は、「課税される所得」のうち、
195万円以下の部分には5%の税率。
196万~330万の部分には10%の税率。
330万~695万の部分には20%の税率。
というように、それぞれの段階ごとに所得税率が違うというやり方を採用している。
これを「超過累進税率」という。
逆に、一定の水準を超えたときに、全体に対して高い税率を課すことを「単純累進税率」という。
所得税の速算表の「控除額」というのは、超過累進税率の計算の帳尻を簡単に合わせるためのものだ。
所得の低い部分には低い税率を課されるため、低い税率を課された分を引くということである。
ちなみに「超過累進税率」の話は、はてブの指摘をいただいて追記したものだ。
新たな知識をフィードバックしてもらえて嬉しい。
改めてここでお礼を言いたい。ありがとうございました。
所得税の話が長くなったが、僕たちはその他にも住民税やら社会保険料やらを取られる。
ちなみに住民税は、どこに住んでいても、どんな年収でも、どんな課税所得でも、一律10%だ。
ここまで見てきたように、所得税は「所得」に課される。
繰り返しになるが、課税される所得金額は、以下の式で計算される。
課税される所得金額 = 支払金額(年収) - 給与所得控除 - いろんな所得控除
上ではわかりやすく給与所得控除を見ていくため、「いろんな所得控除」については触れなかったが、ここが実はけっこうでかい。
所得税率というのは、割と高収入な人だと20%とか23%になるだろう。
「いろんな所得控除」という部分で10万円控除したら、2万円分税金が安くなるということだ。
たとえば「扶養控除」。
扶養している親族一人あたり38万円を所得から控除できる。
もう働いていない母親の分の生活費を払っている場合、扶養している家族は1人。
38万円 × 20% = 7万2千円
で、72,000円も税金が安くなる。
72,000円って、もし会社から突然もらえたらめちゃくちゃ嬉しい額ではないだろうか?
税金はちゃんと申告すれば戻ってくるものもあるけれど、申告しなければ目一杯取られてしまう。
僕たちは普段の食事やら服やらを節約して、給料をなるべく残そうとするけれど、払った税金が戻ってくるように考えることは少ない。
もちろん、サラリーマンの節税なんて基本的にたかが知れていて、節税に知恵を巡らせるくらいなら、本業で頑張ったほうがいいのは事実だと思う。
それでも、僕はあまりにも、あまりにも税金について無知だった。
何も知らなかった。
どれだけ税金を取られて、なぜそれだけの税金が掛かるのか、考えたこともなかった。
源泉徴収は便利だけど悪魔のような仕組みだ。
僕たちは、ほとんど意識することもなく、税金を支払い、生きていく。
税金を支払っている意識がないから、税金がどう使われているかにもなかなか関心を示せない。
そして、税金を使う側の役人にとっても、公共の目が厳しいとはいえ、所詮は人の金である。
会社の経費だとつい無駄遣いしてしまう人がいるように、人間は基本的に、他人の金を使っても心が痛まないようになっている。
公共事業の生産性の低さ、国家予算が膨れ上がり続ける原因の一つに、僕達の納税意識の低さがあるような気がしてならない。
仮に毎年必ず、札束を数えて税務署に行き、そこで税務署の職員さんを睨みつけ、泣きながら税金を支払うとしたら、僕たちは税金の無駄遣いを絶対に許さないだろう。
税金の元は、命を削って働いた金なのである。
こんなことをブログに書いたところで社会は変わらないし、世の中には何の影響もない。
でもせめて、このブログを読んだ人は、僕と一緒に税金について意識してみてほしい。
僕は税金のことを調べながら、ドラゴン桜の1巻に出てくるセリフを思い出した。
社会にはルールがある。
その上で生きていかなくてはならない。だがな、社会のルールってのはすべて頭の良い奴が作っている。
つまりそれがどういうことか。
そのルールは頭の良い奴に都合のいいように作られてるんだ。
逆に都合の悪いところは分からないように隠してある。
それでも頭を働かせるやつはそこを見抜いてルールを上手に利用する。
例えば携帯電話、給与システム、年金、税金、保険...
みんな頭の良い奴がわざと分かりにくくして、ロクに調べもしないやつから多く取ろうという仕組みにしている。
つまりお前らみたいに頭使わずに面倒くさがっていると、一生だまされて高い金払わされるんだ。
これ、まさに僕のことじゃないですか?
面倒くさがって、ロクに調べもせずに、取られるがままに取られてた。
僕に社会のルールは変えられないけれど、ルールを利用する賢さを身に付けていきたい。
税金リテラシーはその第一歩なのではないだろうか。
* * *
この記事は以下の2冊を読んで書きました。
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金持ち社長~の本は、日本の企業の7割が赤字になっている実態から、法人がどのように節税しているかを書いたものです。
法人による節税に比べると、サラリーマンの節税なんてゴミのようなもので、それは逆に、
「サラリーマンはなんだかんだ金持ちになれない」
と言われる所以なのかもしれません。
サラリーマンの9割は税金を取り戻せる - あらゆる領収書は経費で落とせる【増税対策編】 (中公新書ラクレ)
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こちらの本は面白いと言えば面白いのですが、節税のために逆に支出を増やしかねない部分もあり、手放しにおすすめできません。
控除の申告の際には参考になるかもしれません。