「サラリーマンが300万円で会社を買う」という選択肢が面白い



『サラリーマンは300万円で小さな会社を買いなさい』という本が話題になっていた。

想定読者は40代後半から50代の大企業中間管理職のサラリーマンである。

著者の三戸政和さんは、40代後半から50代のサラリーマンを褒めちぎっている。


業界上位の大企業は長年の厳しい競争の中で勝ち残った勝者である。

そんな大企業には長年の激しい競争に勝ち残るだけのノウハウが蓄積されている。

大企業の中で働くサラリーマンは社内に蓄積された「勝利のマネジメントモデル」の使い方を習得し、当たり前のように使いこなしているのだと。


一方で、中小企業には大企業が当たり前にこなしているようなマネジメントのノウハウはない。

業務管理システムは存在せず、未だIT化もままならないような「型落ち」状態なのが中小企業の実態なのだそうだ。

そんな中小企業に大企業のノウハウを持ち込むだけで、経営が大きく改善する事例は多々あるのだと著者の主張だ。

大廃業時代は企業買収のチャンス

日本には約410万社の会社があって、そのうち約380万社が中小企業である。

CMなどで一般的に馴染みのある大企業は1万2000社で、全体のわずか0.3%。

そのうち東京証券取引所一部に上場しているのが約2000社。


株式上場している会社の総数が約3600社で、世の中の会社の0.1%なのである。

「大企業は1000社中3社しかない。中で働く社員はエリートであると自信を持っていい」と三戸さんは述べる。

実際は大企業で働いているだけしか取り柄がない人がなぜかエリート意識を持って手に負えなかったりするのだけれど、三戸さんはとにかく、大企業社員は選ばれし者だ!自信を持て!と発破をかけている。


帝国データバンクが発表した「2017年後継者問題に関する企業の実態調査」によると、国内企業の3分の2にあたる66.5%が「後継者不在」なのだという。

具体的には中小企業380万社のうち、250万社が後継者不在。

社長が60歳以上の会社が約200万社あり、その多くが後継者問題に頭を抱えている。

中規模企業の社長の約6割が「事業を何らかの形で他者に引き継ぎたい」と考えているが、後継者が見つからないのが問題なのだ。

そこには、長く続けてきた会社を畳むのが心苦しいという心理的な理由だけではなく、廃業するのにもお金がかかってしまうという事情もある。


三戸さんは「今後10年間が大廃業時代のピークである」と見立てており、この買いやすい時期こそがチャンスだと本の中で何度も強調している。


人生100年時代に資本家として生きる

『お金持ちになれる黄金の羽根の拾い方』で橘玲さんは以下のように述べている。


「法人という箱を持つことで、合法的に税制のメリットを享受することができる。

サラリーマンでは働いても働いても国家に毟られて、制度的になかなか金持ちになれない。

しかし小さな会社を持つことで税の支払いを減らし、より早く金持ちになることができる。

制度の歪みを利用して、合法的に金持ちになる方法が『マイクロ法人を持つこと』なのだ」




『サラリーマンは300万円で小さな会社を買いなさい』の主張もこれに似ている。

個人M&Aを駆使して会社を買い、リタイア後に資本家として生きよう、というのが大筋の主張だ。


人間が100年生きる時代である。

65歳か70歳で定年したとしても、30年間は少ない年金で暮らさなければならない。

再雇用されても少ない給料で細々と働く羽目になるかもしれない。

そんな時代だからこそ、「個人で会社を買って、資本家として新しい人生を歩もう」というのが本書のメッセージである。

買える会社の探し方

会社売買のマッチングサイト「TRANBI」では「会社を売りたい人」と「会社を買いたい人」のマッチングを行っている。

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これはすごいサイトだ。

検索を押すと、業種や売上高が詳しく掲載されていて、カタログを見るように興味のある会社を探すことができる。

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パッと目についた案件だと、

M&A案件情報:都内 一等地繁華街の地下 カウンターカラオケバー

などがある。

売上高1,000万円〜5,000万円。

購入希望価格は1,000万円以下。

平日4時間営業で、「営業時間を伸ばせばさらに売上アップを狙える」ようなビジネス上のポイントもしっかり記載されている。

譲渡理由は「後継者不足のため」だ。


いや、このサイトはすごい。

興味がある人は「TRANBI」をパラパラとめくってみてほしい。

通勤途中でも確認できるレベルの気軽さだ。


他にはストライクが運営する「SMART」というサイトがある。

このサイトは「TRANBI」ほど美しいUIではないが、譲渡希望の会社がカタログ形式で紹介されている。

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SMART|STRIKE社より

詳細を見るには僕達の個人情報を入力しなければならない。

会社名を入力する箇所があるので、企業間の買収をイメージしているのかもしれない。
個人が買う場合は「個人事業主」あるいはマイクロ法人名を記入するのだろうか。


国が運営するM&A「事業引継ぎ支援センター」には「譲受ニーズの中から情報のマッチングを行う」サービスもある。


これらのサイトを見ると、割とカジュアルに会社の売買が行われているような印象を受ける。

売り手側がのっぴきならない事情で事業を手放さなければならない場合は、買い手にとってはチャンスだということだ。


いきなり「会社を買いましょう」と言われても戸惑ってしまう人が大半だとは思うが、人生は長い。


「勤め人として定年まで働き、老後は年金で暮らす人生」以外の選択肢を持っておくのは悪いことではない。

個人による企業買収は、行使するかどうかを自分で選択できるオプション取引なのだ。


ミニM&Aの広がり

2019年6月21日の日経新聞17面に

「ミニM&A拡大 会社員も事業主」

という記事があった。

年商1億円未満の企業を対象とするミニM&Aが広がっているという。
副業の解禁を背景に会社員の参入も増え、30代〜50代の個人が買い手となるケースが増えている。

日本M&Aセンターは18年4月にオンラインの事業継承サービス「バトンズ」を分社化し、ミニM&Aの案件開拓を加速している。

事業継承・M&AならBatonz(バトンズ)

バトンズに登録する買い手の6〜7割は個人事業主や会社員で、成約実績は200件を超える。
売買金額の平均は2000万〜3000万だという。

『サラリーマンは300万円で小さな会社を買いなさい』の影響なのか、副業時代が背景にあるのか、個人のM&Aは加速する。
しかし安値がついている企業の大半は借金の多さや事業規模の小ささなどの理由があるもので、安易に会社を買って失敗する例も後を絶たない。

個人的には実際に会社を買ってみることで学びになる部分はとても多いと思うので、

「失敗のリスクがあるからやらない」

というのはもったいないと感じる。
しかしながら、一度の失敗で全財産を失うようなチャレンジには反対である。

一回でうまくいく事業はほとんどなく、たいていの事業は失敗を繰り返しながら錬度を高めていくものだからだ。
小さくチャレンジして、小さく失敗しながら経験を積み、成功につなげていくのがいいだろう。