合理性とは程遠い組織の中で、「合理的な働き方とは何か」とずっと考えてきた。
司馬遼太郎さんが己の青春を奪った太平洋戦争をきっかけとして日本人とは何かを考えてきたように、
「夢にときめき、明日にきらめく会社員生活」の幻想を打ち砕かれたことをきっかけに、会社とは何かを考え続けてきたのだ。
以前、「日本の労働生産性が低い理由」という記事の中で、労働生産性が低い理由を
- 階級主義
- 平等主義
- 不勉強
にあると考察した。
その後ツイッターを見ていたらゴッホさんが労働生産性に言及していて、ふと会社のことを思い出した。
日本の会社員は目標数字いってなくても怒られるだけでクビにはならない。最悪減給かボーナスが出ないだけ。解雇規制がゆるい海外とは緊張感が違うはずで、仕事してフリしてサボって副業した方が合理的、できる社員はアホらしくて独立して行く、というのが生産性が上がらない要因では
— ゴッホ (@goph_) 2019年3月9日
会社員にとってサボって副業した方が合理的なのはその通りかもしれないが、多くの人がそうしないのはなぜだろうか。
大企業で副業は合理的か
NPO法人が大企業に勤務する正社員1236名に対し副業に関するアンケートを取ったところ、副業をやっている人が16.7%、副業に取り組んでみたい社員が41.7%にものぼったという。
僕は友達が少ないので周りにいる人が副業しているかどうかは踏み込んで話すことはない。
隠されているだけかもしれないが、僕の感覚的には、
「副業には興味があるが、会社をサボってまで副業するくらいの意気込みがある人はほとんどいない」
くらいが実態のように感じている。会社へのコミットを捨てられない、と言い換えてもいい。
というのも、「大企業で終身雇用を前提に働いている人」にとっては、「会社をサボって副業すること」は決して合理的な選択にはならないからだ。
会社員の副業の多くは、コンビニでアルバイトしたり他の会社で働くことではなく、インターネットビジネスや転売、株や不動産でお金を稼ぐことだろう。
会社員として働いたあとの余暇の時間で副業をして、厳しいマーケットの中で闘ったとしても、会社員の給料を超えるだけの収益を上げられる人はものすごく少ない。
一方で多くの会社には「副業規制」があるため、最悪解雇される可能性を考えるならば、むしろ「何もしない」方が合理的と判断できるケースも多々あるのだ。
特に年功序列、終身雇用を前提とした大企業では、会社を離れると大幅に年収が減ってしまう人が多い。
市場価値よりも高い給料をもらっているからなのだが、そういう人にとっては、
「副業なんてしないで会社で頑張る」
方が人生戦略的にはリスクが少ないはずだ。
そのため、解雇を恐れる会社員にとって
「仕事してるフリしてサボること」
は合理的かもしれないが、
「仕事してるフリしてサボって副業をすること」
は合理的な選択にはならないのだ。
どんな資産が蓄積されるか
いま改めて振り返ると、会社勤めの経験から得られる資産は4つある。
- お金
- 技能
- やりがい
- 評判
である。
僕たちは自分の時間を投入して、会社で成果を上げて、その結果として「お金」「技能」「やりがい」「評判」を手に入れることができる。
合理的な働き方を考える上で大事なのは、会社での成果がどんな資産につながっているかを意識することだ。
僕が思う「最ももったいない働き方」は、自分に残る資産が「お金だけ」のケースだ。
- 社内ルールやその職場でしか使わない知識ばかりが身に付いて、会社の成果が市場価値につながらない。
- 成果は社内だけに閉じられて、外部での評判が蓄積されず、自分のブランドにならない。
- 日々暗い顔をして、やらされ感たっぷりの仕事でやりがいもない。
- お金だけ定期的に入ってくるので、そのお金で余暇を充実させるのが楽しみ
という働き方は、おそらく将来的に辛くなる。
というのも、会社で働く時間はものすごく長いからだ。
仕事は人生の大半を占めるため、お金だけと交換するには時間が長すぎるのである。
会社で働いて、その後に何かをするのはせいぜい一つか二つが限界だ。
会社で働いて、デートして、ブログも書いて、本も読んで、英語もやって、みたいなことを全部やる時間はない。
一日の大半は会社に費やすことになるのだ。
投入するのは一日で最も頭が働く日中の時間だ。
その貴重な時間をお金と交換するだけで消費してしまうのは、実にもったいない使い方である。
会社の仕事を通じて「市場価値」が上がったり、「この仕事は○○さんが成し遂げた仕事だ」という「評判」が外で確立されると、未来の選択肢が広がる。
「技能」や「評判」が資産として蓄積されると、後々に大きなお金となって自分に返ってくるのだ。
合理的な働き方とは
さて、ここまでの話で、投入した時間がどんな資産になって残るかを考えてきた。
最後にタイトルの通りに合理的な働き方を考えると、仕事を通じて「技能」や「評判」が蓄積されていく場合、合理的な働き方は
「会社にフルベット」
「仕事に全力投球で会社での成果を最大化する」
ことになる。
そこで成果を上げたら将来的には自分の独立や転職市場での価値高騰を通じてお金になって返ってくるし、中途半端に副業するよりもリターンは大きくなるだろう。
会社で投入した時間が「評判」や「技能」につながらず、ただ「お金」を稼ぐためだけに働いている場合、合理的な戦略は
「給料が下がらない程度に働いて、副業などで自分のビジネスを作る」
こととなるだろう。
会社で働いたところで能力は上がらず、社内の謎ルールに精通するばかりで市場価値が上がらないのであれば、投入する時間をできる限り少なくして、給料をベーシックインカムにして自分のビジネスを作っていくのがよい。
クビにならないように注意しつつ、転職を視野に入れて、副業によって市場価値を上げながらビジネス基盤を作っていく。
ただ、この戦略の注意点は、いつまでも市場価値が身に付かない職場でダラダラ副業して、副業が成功しないままでいると、
「市場価値も低く、会社での評価も低く、副業でもパッとしない」
という三重苦のうだつの上がらない会社員として、会社から脱出できなくなってしまうことだ。
個人的には副業に力を入れながらうだつの上がらない会社員を続けるのは3年が限界だと思っている。
人間の精神力は、組織の中でダメなままでいられるほど強くない。
特に大企業では真面目に一生懸命働く秀才が多い。
「副業やっていたことが会社員のキャリアに活きた!副業は素晴らしい!」
なんて吹聴する人がツイッターにたまにいるが、真面目に一生懸命に一心不乱に会社の業務に取り組んでいる人たちに、副業サボリーマンが勝てるはずがないのだ。
副業サボリーマンの道は、引き返せすことのできない退路なき一本道である。
途中から
「終身雇用にフルベット」
戦略に切り替えようとすると、その時点で出世競争から大きく出遅れてしまっているので、最初から覚悟を決めなければならない。
大企業に勤めている人などでもう少し無難にいきたい場合は
「副業(or 社外)で身に付けたスキルを会社に還元し、会社で自分しかできない仕事でポジションを築く」
という技が効果的だと思う。
もちろん「大企業で最初から終身雇用にフルベット。出世は男の本懐だ」という戦略も正しいし、会社で評価されて市場での評価も上がっていくならそれに越したことはない。
しかし市場価値が上がらない場所でひたすら出世を目指すことはすなわち、会社にリスクを全部預けてしまうことになるので、人生戦略的には非常にリスクが高いものとなるだろう。