5分で眺める「ITビジネスの原理」




「ITビジネスの原理」という本を読んだので、面白かった内容を紹介します。


* ITビジネスで利益を生むこととは

ビジネスでお金を生むためには、「商品をできるだけ安く仕入れて、できるだけ高く売る」必要があります。

表現を変えると、

「その商品を安いと感じているところから仕入れて、高く感じているところに売る」

のがビジネスでお金を生むということになります。

たとえば大航海時代。
スペインやポルトガルの商人がこぞってインドに旅立ちました。
インドで香辛料や紅茶を安く仕入れて、自国で高く売り払っていたのです。

これは言ってしまえば、「場所によって価値が異なっている商品をお金に換えている」ということです。

この「場所による価値の違い」をお金にするためには、

・売ろうとする商品
・その商品の価値が最も低い場所
・その商品の価値が最も高い場所

の3つを結びつける必要となります。
商品の価値の差分から、利益を得るわけです。


インターネットの最大の特徴は、「空間的、時間的な制約なしに世界中を結ぶこと」です。

どこで何が安いのか、その商品を高く買いたい人は誰なのか?

という情報を、瞬時にマッチングし、結びつけることができます。

これによって、特定の企業が持っていた「場所による価値の差の情報」から得られる利益はずっと小さくなってしまいました。

たとえば、昔のコンサル会社では、「アメリカの先進的な事例を日本に持ち込んで導入する」というようなビジネスを展開していたのですが、海外の情報でも公開されたものは瞬時に共有されてしまうので、単純に海外事例を集めるだけでは価値を生み出せなくなってしまいました。

アメリカで流行ったサービスを日本に持ち込んでヒットさせるなんてことも昔は流行りましたが、今では世界中のサービスがすぐに共有されてしまうので、難しいかもしれませんね。
日本人が皆、Instagramを使っているように。



* インターネットで稼ぐということ


インターネット以前の商売は「モノの価値の差」で商売をしていましたが、インターネット後は「情報の価値の差」を商売にしています。

たとえば、リクルートが提供している転職サービス。

転職を考えている人は、企業の情報を欲しています。
でも、どんな企業が求人を出していて、どんな条件が揃っているのか、転職にはどんなノウハウがあるのか、一人で調べるには限界があります。

一方で、企業からしてみると、転職希望者を募っているものの、転職希望者がどこにいるのかがわかりません。

つまり、

・転職希望者は企業の情報を欲している
・企業は転職希望社の情報を欲している

わけです。

リクルートは、「転職希望者」というユーザをリクルートに集めており、そこに価値があります。
転職希望者の情報に対して、転職者を探している企業がお金を払う構造。
つまり、ユーザの情報に対して企業がお金を払っているのです。



* ユーザーの価値


インターネットのビジネスとは、つまるところ、「ユーザを安く仕入れて高く売る」ことです。
Googleは多くのサービスを無料で提供しています。

検索、メール、動画、地図...日常の多くの場面で、僕たちはGoogleの無料サービスの恩恵を受けています。

しかし、Googleも慈善事業をしているわけではありません。

ユーザを集めて、そのユーザーが何に興味を持っているのかを正確に把握し、そのユーザにメッセージを届けたい企業の広告を表示しているのです。

取引の対象は「モノ」でも「情報」でもなく、「ユーザ自身」となっています。
これが「ユーザを安く仕入れて高く売る」ということです。

世界中に散財しているユーザを一箇所に集め、「金を出してもそのユーザの情報が欲しい」と思っている企業や人と結びつける。
これが、インターネットのビジネスの基本です。

ただ、ユーザーを集めるにはコストがかかります。
広告を出したり、新サービスを開発したり、全てお金がかかります。

そのコストをできるだけ下げるためには、ユーザに「勝手に集まってきてもらう」必要があります。
インターネットビジネスを行っている企業は皆、ユーザが勝手に集まる仕組みを作るために、日々努力しているのです。



* 純粋想起の強さ

「検索すること」を考えた時、最初に思いつくのは何でしょうか。
きっとほとんどの人はGoogleを思い浮かべると思います。

Yahooを思い浮かべる人もいるかもしれませんが、Yahooの検索も裏ではGoogleの検索エンジンを利用しています。

動画といえば、Youtubeですね。
メールといえば、Gmail。
オークションといえば、ヤフオク。
レストランといえば、食べログ。


このように、何のヒントもなく「○○といえばXX」と思い浮かべることを純粋想起といいます。
インターネットのビジネスでは、純粋想起を取ったサイトに人が集まります。

「生産規模が大きくなるにつれて、生産が効率的になって、収穫は規模の増大分より大きくなる」というのがビジネスにおける「収穫逓増の法則」です。
従来は工業生産や農業などで使われていたのですが、インターネットビジネスでは「ユーザが増えれば増えるほど、さらにユーザが集まってくる」ということを指します。

勝っている人がさらに勝ち続けるのがインターネットの世界なのです。
ツイッターでフォロワーが多い人がさらにフォロワーを増やしていくのと似ていますね。



* インターネットビジネスと課金について

「フリーミアム」という言葉が流行ったことがあります。
基本的には無料サービス(フリー)で、一部の強化機能サービスに対して課金する(プレミアム)ということで、フリーミアム(フリー+プレミアム)と呼ばれていました。

EvernotやDropboxがその例として挙げられますが、昔流行ったmixiも同じですね。
日記の文字を太くしたり、大きくするためにはmixiプレミアム会員になる必要がありました(僕は当然プレミアム会員でした)

無料でユーザを集めてしまえば、そのうち1%であっても付加価値サービスにお金を出してくれれば、充分ビジネスとして成り立つと考えられていたからです。
これがフリーミアムの考え方です。


一方で、コンテンツそのものに課金させる「課金ビジネス」は以前はほとんどうまくいかなかったようです。

たとえば、ニューヨークのロングアイランドの地元日刊紙ニューズデイはオンライン版のnewsday.comを有料化しましたが、3カ月後の契約者数はなんとたったの35人。
サイトへのアクセス数も減って踏んだり蹴ったりだったそうです。

このように課金ビジネスがうまくいかなかったのは、人々が情報にお金を払いたくないのではなく、集金システムが整っていないからだと、著者の尾原和啓さんは言います。

「ITビジネスの原理」が書かれたのは2014年ですが、最近では一般の人が有料のnote記事を書いて、ツイッターなどを通じて売っています。
人々は課金そのものが嫌だったのではなく、課金のハードルが高かったから、お金を出さなかったのです。

クレジットカードの番号を登録して、セキュリティコードを入力して、下手したら住所も入れて...

なんてやっていると、非常に手間がかかる。
この手続きのハードルが非常に高かったのです。

noteに関して言うと、一度誰かのnoteを買って、そのときにクレジットカードを登録したならば、後はクリック一つで記事を買うことができます。
集金システムができあがっているわけです。

女子のカリスマとなっている下田美咲さんは「noteで月に400万円も売り上げている」とどこかで見たことがありますが、この売上は、

・人は情報に課金するのが嫌なのではなく、手続きが面倒だった

ということの証左なのかもしれません。

情報そのもののコスト、その情報を探すための探索コスト、情報を手に入れるために必要なコスト

の3つを合わせたものが価格に見合っていれば、人はお金を出すということです。


さて、「5分でわかる」というタイトルにしながら、ここまで3000文字超書いてしまったので、続きはまた今度にします。
同じ尾原和啓さんの著作で「THE PLATFORM」という本も読んだので、そちらの内容も一緒に紹介できればと思っています。


ITビジネスの原理

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