ローマの英雄カエサルに学ぶ、ジジイを敵に回すことの恐ろしさ

シェイクスピアが『ジュリアス・シーザー』という英語の戯曲を書いたことでも知られるローマの英雄「ユリウス・カエサル」の名前を聞いたことがある人は多いのではないでしょうか。

漫画『アグリッパ』の記事でも書いたように、軍事をやらせても超一流。政治をやらせても超一流。女にもモテて、市民の人気も抜群という、何でもできちゃうヒーローです。


「ガリア地方」と呼ばれる今のフランスやベルギーのあたりを平定し、ローマの勢力範囲を大幅に広げたのがカエサルでした。

カエサルが活躍していた頃のローマは「共和制」と呼ばれる政治形態をとっていました。

共和制とは、「国のことはみんなで話して決めようね」という統治形態です。
絶対的な権力を持つ人はいません。

市民たちが参加する「民会」

「民会」が選んだ「政務官」

そして「政務官」のOBや貴族階級のジジイがあつまる「元老院」という諮問機関があって、「民会」「政務官」「元老院」の三者によって成り立っていたのが共和政ローマの政治です。


会議ばっかりしている会社で働いている方なら共感してくれると思いますが、「共和制」のように、なんでも合議をとって決める形態だと、とにかく意思決定が遅いですよね。

2000年以上前のローマも同じ問題を抱えていました。

我々が毎日ビジネスで競争しているように、ローマは周辺諸国と絶えず戦争を繰り返している状態でした。

「戦争」という国家の一大事に、呑気に「みんなで物事を決めよう」なんてチンタラしていたら、行動を起こすまでの初動がものすごく遅くなってしまいます。


現代日本の大企業みたいなマンネリ状態が、共和政ローマを覆っていたのです。

そんな中で登場したのカリスマが、ユリウス・カエサルでした。



ローマにはとても実力のある軍人が2人いました。

ポンペイウスとクラッススです。

カエサルは彼らを味方につけ、自分も含めた巨大な精力にすることで、いちいち物事に口を挟んでくる「元老院」を抑え込もうとしたのです。

これが世界史の教科書にも出てくるカエサル、ポンペイウス、クラッススによる「三頭政治」のはじまりです。


三頭政治は最初はうまくいっていたのですが、突如崩壊します。

紀元前53年に、東のパルティアに攻め込んでいたクラッススが「カルラエの戦い」でコテンパンに負けて、殺されてしまうのです。


元老院は「それ見たことか」と大喜びで、ローマに残っているポンペイウスを責め立ててます。

「失敗はお前の責任だ!お前達が調子に乗っているからだ!」

と。

窮地に陥ったポンペイウスが取った作戦は、「元老院と手を組んでカエサルを追い落とすこと」でした。

カエサルはそのとき、ガリア全土を制覇するために北に遠征していたわけですね。

ガリアを制覇して凱旋帰国する途中のカエサルに元老院は「元老院最終勧告」を突きつけます。


「ガリア総督の地位を捨て、その身一つでローマに帰らないと、お前を反逆者扱いする」

というものです。

ガリアから大軍を引き連れて帰路につくカエサルは、ルビコン川の前で立ち止まります。

当時、ローマとガリアの境界線がルビコン川だったのです。

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「この川を渡れば私は反逆者である。

これまで私利私欲を捨ててローマの平和のために尽力してきた。

ここで全てを捨ててローマの政治家に許しを請えば、私の生命は保証されるだろう。

しかし、それではローマの政治は変わらない!」


カエサルは意を決して叫びます。


「このルビコン川を渡ればもう後には引けない!

しかしローマの政治を変えるために、私と共にこの川を渡ろう。

賽は投げられた」


大軍を率いてローマに攻め込んだカエサルは、ポンペイウスや元老院をギリシャの方に追いやることに成功します。


さて、話を少し飛ばしますが、紀元前48年、カエサルはギリシャに逃げたポンペイウスをぶっ倒して、「元老院」の長老連中を押さえ込むことに成功します。

その上、エジプトやトルコにまで支配の範囲を広げ、意気揚々とローマに凱旋します。

キングダムでいうと、王騎将軍をはるかに超える英雄となったわけです。


そうして絶大な権力を握ったカエサルはローマ本国の政治システムに大きなメスを入れていきます。

「元老院」が力を持ちすぎて、変革の決定にいちいちイチャモンをつけてくるから、改革が進まない。

こういう奴らを排除していかないとローマは良くならない!と、カエサルは考えていました。

そこで彼は、自らを「終身独裁官(インペラトル)」として、共和制ローマにおける権力を自分に集中させていったのです。

この「インペラトル(Imperator)」という単語は「皇帝」を表すのに使われる英単語「エンペラー(Emperor)」の語源となりました。

紀元前44年2月のことです。


そしてその一ヶ月後、紀元前44年3月15日。

カエサルは「元老院」の定例会議に出席するために登院します。

「元老院」はカエサルに服従しているものと思い込んでいたカエサルは、護衛もつけずに会議に向かっていたのです。

そんな「元老院」に向かう廊下で、無防備のカエサルを取り囲む元老院派の連中たち。


「こ、これは...暗殺...!?」


襲撃に気付き、応戦しようとしたそのとき。

カエサルに剣を突き立ててきたのは、親友のブルトゥスでした。


「ブルータス、おまえもか?」

と言い残し、英雄カエサルはその生涯を閉じます。


栄華を極め、その生涯の絶頂期に達した直後の、突然の暗殺でした。

ジジイを敵に回してはいけない


カエサルの暗殺劇には重要な教訓があります。

「ジジイを敵に回してはいけない」ということです。

かつてテレビ局の重鎮をこき下ろし、既得権益をぶっ壊そうとした若き起業家が塀の向こうに落ちました。

物言う株主として成果を出さぬ無能な経営者をこき下ろし、経営改革を迫った投資家も塀の向こうに落ちました。

彼らの違法行為をかばう必要は全くありませんが、その司法判断には「ジジイを敵に回したことによる悪意」が多少は混じっていたように思うのです。


ジジイは敵に回してはいけません。

既得権にしがみつく人を引き剥がそうとすると、必ず大きな抵抗に遭うからです。

既得権を持っている人間は、その地位を失いそうになるときに全力で抵抗します。

人間は新しく何かを得ることよりも、持っている何かを失うことを恐れるものだからです。


歴史ある大企業に勤めている方は、古い慣習にしがみつき、口を出すだけで実行力がなく、全く使い物にならないジジイが近くにいるかもしれません。

共和政ローマの「元老院」のような連中ですね。


そういうジジイが近くにいたとしても、彼らをこき下ろしてしまってはいけないのです。

こき下ろすと、必ず抵抗に遭い、牙をむかれてしまうからです。


歴史が教えてくれる大切な教訓は、既得権ジジイは破壊するべきではなく、味方につけるべきだということです。

ジジイを惚れさせることに定評のあるDeNAの南場智子さんは読売巨人軍のオーナーである渡辺恒雄(ナベツネ)を味方につけて、プロ野球参戦の強力な後押しを得たといわれています。

ジジイはその地位を追い落とされると抵抗してきますが、惚れさせるとその地位を使って全力で応援してくれるわけですね。


古い業界を変えるために必要なのは、ジジイを追放することではなく、ジジイに愛される「推しメン」になることなのです。


次回は英雄カエサルの失敗から学び、「元老院」のジジイをうまく味方につけて初代ローマ皇帝となった「オクタビアヌス」について紹介していきます。