「量より質が大事」ハンマー投げ金メダリスト、室伏広治の練習方法



室伏広治といえば、

「超人」

とか、

「人間離れした身体能力」

というイメージがあります。


武井壮が語ったところによると、以下のような室伏伝説が。

  • 高校時代、アームレスリングのチャンピオンを瞬殺
  • 2005年、巨人vs横浜戦の始球式で野球経験ナシのめちゃくちゃなフォームで131キロ
  • 高校時代、やり投げの国体になぜか室伏広治が出場していて、大会前に駐車場で小石を投げる練習をしただけで準優勝
  • 練習中の立ち幅跳びで世界記録を更新
  • 100メートルを10秒で走る
  • ボブスレー日本代表候補になった
  • 握力計測不能(針が振り切れて計測できない)
  • ハンマー投げ以外なら年収100億レベルの身体能力



多くの人が「室伏広治」に抱くイメージは上記のようなものでしょう。

僕の中では、ずいぶん昔に見た筋肉番付で室伏が対戦相手を瞬殺しまくっていたのが印象的でした。


そんな室伏さんの本、『ゾーンの入り方』を読んだのですが、伝説とは裏腹に、本の中で彼は自分自身をこう語っています。

高校入学時、身長は182センチありましたが、体重は70キロ程度。
とても世界の投擲選手になれるような体格ではありませんでした。

ハンマー投げのトップ選手たちと一緒に戦っていると、彼らの素質や体格には驚かされてばかりでした。
ハンマー投げという競技をよく理解している人であればあるほど、彼らと私を見比べて「室伏が勝てるチャンスは非常に少ない」と思ったはずです。

室伏広治が五輪に出たり、メダルをとったりする選手になるとは、だれも想像していませんでした。


そう、日本最強の身体能力を持つと言われている室伏さんは自分自身を


「けっして素質に恵まれた人間だったわけではありません」


と言っているのです。

もちろん日本の中ではダントツでしょうが、世界トップクラスの選手に比べると恵まれていないということです。


そんな素質に恵まれなかった室伏選手が世界のトップレベルで戦える選手になれたのは、

「自分の持てる力を極限まで引き出すにはどうしたらいいかを追求してきたからだ」

と述べています。

練習は量より質だ

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僕は割と体育会の根性系の価値観なので

「量が質に転嫁する」

「ひたすら時間を投入することが大切だ」

と考えてしまいがちでした。

ツイッターでも落合陽一さんが18時間働いているとツイートしているのを見てめちゃくちゃすごいなと憧れたりしていました。


ですが、室伏広治さんは「ただ量を積み重ねるだけの練習」を明確に否定しています。

「圧倒的な練習量は勝利の条件ではない」

と。


中学生になって、初めて陸上部に入ったときの話。

室伏少年が入学した中学の陸上部では、

「100メートルダッシュ × 10本」

のような練習メニューがありました。

くたくたになって帰宅して、父の室伏重信さんにその話をすると


「100メートル走は大きな瞬発力を要する競技。

真剣に全力で走ったら、二本も走れば立ち上がれないほど疲れるものだ。

そんな10本も20本も走れるというのは、どうせどこかで手を抜いて走っているんだろうから、ただ疲れるだけで何の意味もない」


と言われたのです。

このような父の考えに影響を受け、室伏選手は常に目的を明確にして、いかにして正しい方向に運動するべきかを考え続けてきました。


特に競技生活の終盤では年齢的な問題で、怪我を予防する観点からも練習のやりすぎは絶対に許されないものだったのです。

たとえば二十代の頃の室伏選手はハンマーを投げるだけの練習に毎日6時間ほどかけて、100本以上も投げることがありました。

ハンマーを投げる練習に加えて、ハンマーを使わないトレーニングをするのだから、一日のトレーニングではかなりの時間とエネルギーを費やします。


しかし、30代の後半ともなると、一日に100本もハンマーを投げたら間違いなくケガをしてしまいます。

そこで、必要最小限の本数を投げて、しかも体への負担を最小限にする方法をとることにしたのです。


午前中に16本投げて、昼食をとって昼寝する。

午前中のハンマーを投げたときの映像を昼休みに見て、フォームを念入りにチェックして、「午後は何を課題にして、どういうふうに投げるか」を綿密に決めました。


そして午後に16本、一日32本でおしまいです。


32本だけの練習で100本以上投げていたときと同等以上の効果を上げるには、集中力で練習量をカバーするしかなく、

「一日32本、一本たりとも無駄にしない」

という気概で練習していたといいます。


選手生活の晩年に差し掛かった日々に投げた一本あたりの内容の濃さは、毎日のように100本以上投げていた頃とは比べ物にならないほどだった、と室伏選手は語っています。

目的を持って、時間あたりの密度を高める

歳を取ると誰しも無理が効かなくなります。

スポーツ選手だったらケガをしやすくなってしまうし、
ビジネスマンだとしても徹夜は辛いし、無理をすると体調を崩してしまうでしょう。


「根性でなんとかなる」

「努力は報われる」

は半分本当で、半分ウソです。


何も考えず努力すれば報われるわけではなく、常に目的を考えて、目的を達成するためにはどのように練習すればいいか工夫し続けなければいけません。

僕は室伏さんの本を読んでからでも「量は絶対に必要だ」という考えは変わりませんが、同時に

「質を高めなければ結局人生の時間切れ問題にぶち当たってしまう」

と考えるようになりました。

無限に時間があるならひたすら時間を投入していけばいいのですが、僕も三十代です。

残された時間には限りがあるので、時間あたりの質を高めていくことを考えなければいけません。

室伏さんは現役時代の後半の練習について、こう述べています。


「私は現役時代の後半はつねに『量よりも質が大切』という考え方に立っていました。

『どれだけたくさんやったか』が大事なのではなく、『何のためにどういう練習をするのが最良か』を考えて、

『質』から発想して練習計画を立てていきました。

『あまり質がよくないトレーニングをやるぐらいなら完全に休んでいるほうがいい』と思っていました」


この考え方を自分に取り入れて、たとえば英語の勉強の場合、今までは「とにかく声に出して音読するんだ」とガムシャラにやろうとしていましたが、これからは

「音読するだけでなく、構文を意識する」

「その場その場で単語を暗記するように暗唱する」

「読んだ英文を応用して、英作文してみる」

など、色々と時間あたりの効果を高める工夫をしていこうと思いました。

筋トレもダラダラと時間をかけてトレーニングするよりも、

「鍛える部位を意識して、正しいフォームで刺激を与える」

ことを意識した方が効果的ですよね。


「毎日1時間勉強する」

みたいな目標を立てると、ただ時間を費やすことだけを目指してしまいがちです。

でもそれだけでは望む成果にはつながりません。

「何のために練習するのか」を明確にして、何をするにしても質を高める工夫をしていきたいですね。


ゾーンの入り方 (集英社新書)

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