何度騙されても僕はネカマを見抜けない



振り返れば騙されてばかりの人生だった。

大学に入ったばかりの4月。

昼休みの時間に知らない電話番号から電話がかかってきた。


「はい」

と出ると、

「10万円、払ってもらわな困りますのや」

と言われた。


架空請求だった。


目の前が真っ白になった。

まさか

まさか───


携帯電話で夢中になって辿ったサイトがだったなんて───


大学に入学したばかりの頃の携帯料金は親に払ってもらっていたので、このままでは親に架空請求がいってしまう。

エロ動画を探して罠にハマったなんて親にバレたら切腹ものだ。


昼休みが終わった後の授業が全く頭に入ってこないまま、僕が出した苦肉の策は、


携帯電話を解約すること


だった。

携帯電話の番号を捨て、新たに契約し直すことで、架空請求業者を撒こうとしたのだ。

なんとか2日以内には携帯電話の番号を変えることができ、架空請求業者からは二度と電話がかかってこなかった。

しかし携帯電話を取り替えたせいで、電話帳をほじくり返し


「携帯番号変えました☆

よかったらこちらの番号で登録してください→090XXXXXXX」

みたいなメールを全員に送る羽目になった。

エロ動画の代償はものすごく大きかったのだ。



* * *


高校を卒業した3月の春休み。

僕はなんだか大人の仲間入りしたような気分になって、初めて「出会い系」をやってみた。

何やら怪しいサイトでよくわからない女とメールして、なぜか三日後くらいに会うことになった。

当時はラブホテルの入り方すらわからない子供なのだ。

会ったところで、何をしていいのかわからない!


その子は出会い系の達人らしく、なんだか妙に慣れた感じでやり取りが進んでいった。


「写メ、交換しよぉ☆」


と言われたので、素直に写真を撮って送った。


「カッコぃぃじゃん♪」

と言われ、まだ見ぬ画面の向こうの女に恋をした。

想像力は世界を包む。

どんな女も、顔がわからないうちは美女なのだ。


「ぅちの写メも送るね☆」


と言われて送られてきた写真は画像が荒すぎて何者かはよくわからなかった。

僕は必死で美人であると信じ込もうとした。


当日。

その子が僕の最寄りの駅まで来てくれるというので、僕は胸をときめかせながら駅で待っていた。


ポーンと改札の窓が開く音がした。

と同時に、のっしのっしと歩いてくる物体を発見した。


ど、ドラえもん!?


なんかすごい奴きた。


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や、やべえ。


だが初めての出会い系だ。

逃げるわけにはいかない。


会うなり

「わぁ、カッコィィねぇ♡」

などと言ってくれたのは今でも覚えているが、僕の頭の中は、


この怪物と歩いているところをいかにして友達に見られないようにするか


で必死だった。


なんとしても早く、この怪物を室内に収納しなければ!

と考え、必死の形相で懇願した。


「か、カラオケに行きたい!

歌いたいんだ!」


カビゴンと僕は駅の近くのカラオケに入った。

何曲か歌うとカビゴンさんはものすごく慣れた様子で僕の隣に移動し、潤んだ瞳でこう言った。


「...ねえ」


「しないの?」



や、やべえ。

こいつ、絶対慣れてる。


その後はなされるがままカビゴンに手ほどきを受けたが、僕の息子は一切反応しなかった。


カビゴン、すまん。


* * *


最近、ツイッターではネカマなるものが増えているようだ。




なんという地獄だろう。

花の香りに引き付けられる蝶々のようにエロい雰囲気のアカウントに釣られ、DMを送ったら罠だったとは。

騙された人の絶望感を考えると、同情せずにはいられない。

そしてこのネカマ事件は決して対岸の火事ではないのだ。


僕たちが女子アカウントだと思ってDMを送った相手が実はネカマで晒されて恥をかくことだって十分にあり得る。

僕はネカマ事件を笑えない。


架空請求業者に騙された。

初めてネットで出会った人はカビゴンだった。

そんな僕がDMを送った相手がネカマじゃないなんて、誰が保証できるだろうか。

きっと僕もいつか、罠にハメられるに違いない。


男心の脆弱性を巧みに突くネカマはインターネットの新たな脅威だと僕は思う。


誰だって、アイコンが美女だったら中の人も美人だと思ってしまうじゃないか。

ひどいよ。

俺たちを騙さないでくれよ。

男が喜びそうな台詞を美女アイコンで言って...

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と、木暮君も怒ってる!


ネットに跋扈するネカマを見抜く術は、僕には思いつかない。

もはやネカマをやっている人は、心は本気で女になってしまっているのかもしれない。

僕にできることは、世の中のネカマに対して、どうか僕を罠にハメても晒さないでくださいと願うことだけなのである。