「年収が高いほど仕事が楽しくなる」は正しいのか



阪急電鉄の中吊り広告がツイッターで炎上した。
なんでも炎上するのが最近のツイッターだ。

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「毎月50万円をもらって毎日生き甲斐のない生活を送るか、
30万円だけど仕事に行くのが楽しみで仕方がないという生活と、どっちがいいか」

というメッセージに込めらていれたのは、

「高給でもやりがいのない毎日を送るくらいなら、少しくらい給料が落ちても楽しくて仕方がない仕事を選べ」

というものだろう。

このメッセージに対し、

「そもそも毎月50万ももらってない」
「毎月15万で退屈で死にそうになりながら働いている」

という若者の悲鳴のような声が聞こえてきた。

メッセージを書いた年配の方と今を生きる若者の間で、感覚に大きなずれがあったことが炎上の一因であるとされている。

給与の感覚のずれ以外にも、興味深い指摘があった。

「50万をもらえる仕事よりも30万の仕事の方が面白いことはほとんどなく、実際は給与が高い仕事のほうがやりがいもあって楽しい」

という主張だ。

一般常識として、

(1)大きな責任を任され、裁量も大きく、動かす金額が多く、たくさんのメンバーの中でリーダーシップを取り、社会的に意義のある仕事は、面白い。

(2)単調で、代替可能で、手続きが多く、何の意味があるのかもわからず、興味も関心もない仕事は面白くない。

これは当たり前だ。

(1)のようにいわゆる「大きな仕事」をしている人は年収も高く、楽しそうに仕事をしている印象がある。
少なくとも安月給とはいえないだろう。

一方で、(2)のような単調で退屈な仕事でも安月給とは限らない。
単調で退屈な仕事でも、高給取りはいるのだ。

給料は仕事の楽しさとか、仕事の社会的な意義だけでは決まらない。

元々の給与水準が高い業界で、利益率が高く、労働分配率も高い業界上位の企業に入れば、年収も高くなる。
解雇が難しい日本企業の場合その傾向が顕著で、いわゆる「勝ち組企業」に新卒で入社してしまえば、会社が傾かない限りは年功で勝手に給料が上がっていく。

もちろん、今の日本企業は全体的に余裕がなくなり、「終身雇用・年功序列」の聖域は破壊されつつあるが、少なくともこれまでは(多くの伝統的な日本企業では)仕事のやりがいや意義、能力と給与水準の相関は強くなかった。

どの業界のどの会社を選ぶかで、ほぼ給与水準は決まっていたのだ。

さて、一部の大企業の人たちが、官僚主義的で仕事が退屈で、何の価値があるのかわからない仕事をしていても高い給料をもらえるのは、ひとえのお客様のおかげだ。

伝統ある大企業の強みはその顧客基盤にある。特に何らかのサービスでシェアを独占している会社は強い。
あるサービスでシェアを独占していれば、たとえサービスの改善が滞っていたとしても、お客様がずっとお金を払い続けてくれる。

そのお金があるから、社員に高給を払い続けることができる。
お客様が大きなお金を払ってくれるような関係を築き上げてきた先人は偉大なのだろうが、その顧客基盤を維持する後人の仕事は退屈なものになりがちだ。

それまで積み上げてきたものが大きければ大きいほど、前例踏襲主義は強まり、組織は官僚化していく。
そうして企業の勝ちパターンはいつしか時代遅れになり、社員は新しい何かを生み出す喜びを得られることなく退屈な業務に埋没し、いずれ世に出てくる破壊的イノベーションによってシェアを奪われていく───

というのが、企業の繁栄と衰退の典型パターンなのだろう。

沈みゆく船に乗りたがる若者はそれほど多くはないだろうが、繁栄の期間が終わり、「現状維持」の時期に差し掛かった企業の人気は相変わらず高い。

そして企業の繁栄や衰退と、仕事の面白さあまり相関がない。

仕事が面白いかどうかはあくまでその人とその仕事との相性の問題だ。

  • 自分がどんな仕事をしているときに「面白い」と感じるのか?
  • 自分がどんな状態でいるときに「楽しい」と感じるのか?

この2つの質問に即座に答えられる会社員はどれだけいるだろうか?

ほとんどの会社員は、「自分はどんな仕事を面白いと感じるのか」を意識せず、目の前の仕事を淡々と片付けていく。
普通の会社員にとっては、会社は「面白いと思う仕事をやる場所」ではなく、「やらなければならない業務をこなしていく場所」だからだ。

その結果、何が楽しいかもわからず、それを考えることもなく淡々と業務をこなして、給料は年々上がるけどなぜかやり甲斐は感じられないみたいな、贅沢なのか可哀想なのかわからない会社員ができあがる。

ここまでは「給料が高いけど仕事は退屈な大企業社員」をイメージして書いてきたが、そもそも生活に苦労するほど給料が安い場合は、「仕事を楽しむ」とか「面白い仕事をやる」などを考える余裕はあまりないだろう。

生きていくお金を稼ぐのに精一杯なうちは、仕事を楽しむ余裕などない。
また、生きていくのに困る程度の給料しか払わない会社には不満が溜まりがちで、目の前の仕事を純粋に楽しむことも難しい。

結論に入る。
仕事のやり甲斐や面白さと給与水準は別の話で、それぞれの相関は小さい。

「自分が何をしているときに楽しいのか」は自分自身で考えなければならず、「楽しくて仕方がない仕事」ができる会社の給料が高ければ最高だが、楽しいし相性はいいけど儲かっておらず、給与水準が低い会社もある。

会社員でいる限り、あまりにも給与水準が低い場合は仕事を楽しむどころではなく、不満が溜まる。

最後に、「自分がやってて楽しい仕事」に没頭しながら最大限の裁量を発揮したいのであれば、自分自身でビジネスを興し「好きなことをマネタイズする道」を探し続けるのがいいと思う。

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