SIerの仕事はつまらない?実際の1日の業務内容を見て判断しよう



インターネット上では「SIerはオワコン」「SIerはつまらない」と言われることが多いです。

SNSに積極的に発信する人はSIerの文化と相容れない人(主に「ウェブ系」の人)が多いため、「SIerは終わってる」という意見が拡散されやすい傾向にあります。

一方で歴史ある大手SIerの社員は基本的には終身雇用を前提とした従順な会社員として教育されるため、人目に触れるツイッターに過激なことを書きたがらない傾向があります。

減点主義の文化が根付いた組織の人間には、ネットに自分の意見を発信して、目立つインセンティブが働きにくいのです。

これはSIerの文化をディスっているわけではなく、

「SIerはネット上でサンドバッグになりやすい」

という意味です。

片方が一方的に殴っていたら、第三者はフェアな視点で「SIerがつまらないかどうか」は判断できません。


実際にSIerがつまらないと感じるか、エキサイティングと感じるかは相性によります。

そして業務内容がつまらないかどうかは、マクロな視点とミクロな視点を持って考える必要があります。

SIerのメリットは「大きな仕事」を担当できること

マクロな視点とは何でしょうか?
SIerの仕事は社会に大きな影響を与え、人々の暮らしを豊かにできる可能性があります。

綺麗事のように聞こえますが、街を歩いて考えてみてください。

ピッとSuicaを当てて駅の改札をくぐりました。
運賃が一瞬で計算され、通勤ラッシュのゴミのような人々を遅延させること無くさばき切る改札のシステムを開発したのはSIerの社員たちです。

財布を見るとお金が足りない!
コンビニに寄ってATMでお金をおろしました。

ガラガラガラ...とお金が吐き出され、自動で預金残高が更新されます。
このATMの裏側で動いているシステムを作っているのはSIerの社員です。

コンビニに並ぶパンやおにぎり、お菓子の売れ筋はSIerが作ったシステムで管理され、

「最もお客さんが喜ぶ商品は何か?」

と日々データを元に分析されています。

そのような分析できるシステムを作るのもSIerの社員です。

このように大きな視点で見ると、SIerの仕事は社会に大きな影響を与え、人々の暮らしを豊かにする可能性を秘めています。

これが「会社」や「社会」という単位から見た「SIerの仕事」です。

会社説明会ではこのようなマクロな視点で見た「やりがい」が語られることが多いですね。

でも、視点を「個人」に移したときの業務内容はどうかな?

SIerの業務内容は地味でつまらなく見える

では小さな視点、つまりミクロな視点で考えてみましょう。

ミクロな視点とは何か?一人ひとりの業務です。

会社でどんなに大きな仕事を成し遂げていようと、僕たちの存在は「会社そのもの」ではなく、個人として人生を生きています。

「何を禅問答のようなことを言ってるんだ...」

と思われたかもしれませんが、僕たちが「楽しいと感じるかどうか」「充実しているかどうか」は僕たちの主観に依存しています。

会社がすごいかどうかは「所属している組織に誇りを持てるかどうか」には関係がありますが、個人の幸福感・充実感にはそれほど関係ありません。


SIerの社員はどのような一日を送っているのでしょうか?

「つまらない」と言われるのはなぜでしょうか?


まず「SIer社員」といってもたくさんの人がいて、主に年次によって役割が違っています。

課長レベルの人であれば、現場に立って物を考えるよりも

「100人以上の社員がいる部署の方向性を部長と一緒に検討し、チームを作り、育成し、評価する」

のが仕事となります。

チームのリーダーならば、

「プロジェクトの進捗を管理し、上長に報告し、課題を洗い出し、対策を指示する」

のが仕事になります。

開発担当者もいれば、お客様の元に訪れて、サービスを売る営業担当者もいます。

SIerの業務は多岐に渡るのです。


人によって業務が異なることを念頭に置きながら、SIerの業務に共通する(ネガティブな)特徴を挙げるなら

  • 会議が多く
  • 前例主義・減点主義で
  • 形式的な手続きが多く
  • 独創性の入る余地が少なく
  • 「これ本当に意味あるの?」と思えるような資料作りが多い


となります。

SIerで「SE(システムエンジニア)」と呼ばれている社員は技術屋ではありません。

プレイヤーではなく、監督的なポジションで仕事をしています。


予算を組み立て、技術屋(プログラマー)を管理し、問題点の報告を受け、課題の解決策を検討し、解決を指示し、プロジェクトの状況を上長に報告する。

...と書くとまともな仕事をやっているように見えますが、中の人の業務は「資料作り」と「報告」がめちゃくちゃ多いです。

パートナー企業と呼ばれる別の会社の人に作業させて、その内容を伝言ゲームみたいに受け取って、資料を作って、報告する。

報告する、会議する、報告を聞く、メールを打つ、何かを調整する...

朝の9時から18時まで、ずっと報告と会議だけしている人もたくさんいます。

ずっと会議していて、自席に戻った18時頃から自分の報告資料を作る人もいます。


そして報告の中には、どう考えても形式的で、意味があるかどうかもわからないようなものも含まれます。

会社の文化に染まったおじさんは「意味があるのだ!」と言い張りますが、

「いやお前にそれ報告しても何の問題も解決しねえだろ...」

「報告させないとお前の仕事がなくなるから、無駄なことをやめられないんじゃねぇのかよ...」

みたいなことが頻発します。


意識が高い若手ほど硬直した業務内容に疑問を抱く傾向があり、上がっていく年収とは裏腹に充実感を得られない仕事に葛藤します。

逆に会社に染まって思考を停止した人にとってはSIerは極めて居心地の良い職場になります。

業務は標準化され、「何をやればいいか」は前例があり、前例に従っていれば怒られることもないからです。

黙っていればほぼ年功序列で給料は上がっていき、生きていくには問題ないだけの給料がもらえます。

「顧客に価値を生み出すかどうか」
「良いプロダクトを作れるかどうか」

が業務の本質だとしたら、本質からずれた仕事に費やす時間が業務の7〜8割になっている人も多いでしょう。

しかし思考停止している人間は「全てに意味がある」と考えるので、「自分の仕事が本質からずれている」とかは感じません。


本質からずれた業務が主となる職場では、「頑張っているかどうか」や「会社への忠誠心があるかどうか」が評価の基準となりやすく、最終的には残業合戦に行き着く傾向があります。

作ったプロダクトや売れたサービス、ユーザーの満足度が評価の基準ならば「残業したかどうか」はどうでもいいことなのですが、形式主義的な職場では社員たちは忠誠心を競ってアピールしようとします。


そんな文化に染まっている人ならいいですが、「馬鹿じゃねえの」と感じる若手からするとオワコンにも見えるのでしょう。

SIer社員の一日の業務

新卒採用サイトにNTT DATA社員の一日の流れが紹介されていました。
これはリアルだと思います。

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一日の流れ - NTT DATA

よく見たらわかりますが、一日のほとんどが会議、報告、メールのチェックそして資料の作成になっています。

社会に影響を与える大きな仕事をしている会社の「中の人」の業務はこんなに地味なのです。

しかしながら、地味で退屈な仕事が悪だと決めつけてはいけません。

私たちはあくまでも自らの主観に従って「楽しいか楽しくないか」「やりがいがあるかないか」を判断するべきであって、この業務内容を見た時に、

「自分がどう感じたか」

という個人的な感情をよく覚えておいてほしいと思います。

コツコツと地味な作業をこなすのが好きな人もいます。
決められた手順をしっかりと真面目に行っていくのが得意な人もいます。

そういう人にはSIerは向いてます。


逆に「オリジナリティこそが正義!俺が新しいプロダクトを作って世界を変えてやるぜ!」みたいな野心がある人にはSIerは向いてません。

そこまで仕事に対して哲学がなくても、まともな会社でしっかり働いて、転職も視野にいれてキャリアアップしていこう、と考えている人もいるでしょう。

実はここに、若手の苦悶の種があります。


「SIerでは専門性が身に付かない」

という深刻な問題です。

SIerの技術力が低い問題

典型的なイノベーションのジレンマ問題です。

SIerで採用される技術は「枯れた技術」であることが多いです。

現在の「枯れた技術」は20年前の最先端でした。

大手SIerも昔は最先端を走り、尖った技術で顧客の信頼を勝ち取ってきたのです。

顧客に信頼されたからこそ、顧客は巨額の資金を投じてSIerにシステム構築を依頼してくれているのです。

そうやって勝ちパターンに乗ってしまうと、今度は新しい技術に取り組むインセンティブが著しく低くなります。

既存の勝ちパターンがチャレンジを阻害するのです。

「うまくいった事例」が標準パターンとして全社に共有されます。

そんな標準パターンに従うこと無く「まだ会社で成功例のない新しい技術」を採用するためには、多くの会議を経て、

「昔、会社に利益をもたらしたけど、現代の技術は知らない偉い年配の方」

を説得しなければいけません。


苦労しておっさんを説得しても給料は上がらず、評価もされず、そもそも顧客自身も「新しい技術」には興味がありません。

顧客の関心はあくまで「自社のシステムを予算内で作ってもらうこと」なのです。

最先端の技術を取り入れるかどうかはあくまで手段であって、目的ではありません。
先端技術を取り入れなければできないようなシステム構築の依頼をできるような顧客はそもそも、SIerにシステム構築を依頼しないでしょう。


顧客にも上長にもインセンティブがないし、求められてもいないとなると、どんなにやる気がある人でも新技術の採用は億劫になってしまいます。

「今までやってきたこと以外の新しいもの」に取り組むインセンティブが湧きづらいのです。


標準化された、歴史ある勝ちパターンの業務慣習に思考停止で従うのは、若手からすると

「古臭い技術から離れられず、市場価値につながらない作業を延々としなければならない」

ようにも見えて、これが「SIerでは技術力が身に付かない」という苦悩を生んでいます。


とはいえ、技術力云々よりも「顧客が求めるものが正義」であり、「お客さんがお金を出してくれる限りはSIerは潰れない」のも事実なので、技術力が身に付かないからと言って「SIerはオワコン」とはいえません。

SIerはお客さんと共に滅びるもので、お客さんが滅びない限りはオワコンにはなりません。


「安定した顧客基盤の上で、安定したキャリアパスが用意され、しっかりと仕事をすればクビになることもなく給料が上がっていく」

というSIerの環境は会社員としては最上級の贅沢でしょう。

本気で先端技術を取り入れたいのであれば、顧客に自ら先端技術のメリットを説明し、上長にその効果を説明し、案件を勝ち取り、プロジェクトチームを作り上げなければいけません。

偉そうな人は「自分で現場を変える努力もしないで甘えたことをぬかすな!」と言うかもしれませんが、まぁ上長を頑張って説得する努力をしなくても先端技術に取り組める会社(環境)はあるわけで、自分の目的に合わないのであれば転職を検討するべきでしょう。

「変化が遅い会社で働けば、それほど猛烈に勉強しなくても十分に業務をこなせる」という大きなメリットもあるので、自分の価値観と相談して進退を決めるのが良いと思います。


「イノベーターのジレンマ」の経済学的解明

「イノベーターのジレンマ」の経済学的解明

  • 作者:伊神 満
  • 発売日: 2018/05/24
  • メディア: 単行本

ちなみにイノベーションのジレンマについては井神満先生の『イノベーターのジレンマの経済学的解明』がものすごくわかりやすく、そして面白いです。

ぜひ読んでみてください。

市場価値を意識する

SIerは内心はどうであれ、「転職を前提に働いている」という人は少ないです。
多くの人は会社で終身働くような顔をして業務に勤しんでいます。

特に40代より上で「転職しよう」などと考えている人は全体の1%にも満たないでしょう。

そういう環境に染まってしまうと、自分の市場価値が全く見えなくなります。

外部の評価に晒される機会が少ないからです。

企業の寿命は短くなってきており、勤めている会社が永続するとは限りません。

「今は転職しなくても、いつでも転職できるように準備しておく」

のはとても重要な心構えです。

転職サイトに登録しておき、求人を確認し、市場ではどんなスキルが求められているのかを把握しておきましょう。

キャリアエージェントからフィードバックを受け、「今の自分の客観的な市場価値」を理解しておくことは、人生プランを考える上でも必要になってくるはずです。

マイナビエージェントなどに登録しておくと、エージェントが適宜フィードバックをくれます。
転職エージェントとうまく付き合っていくのは、これから雇用が流動的になる社会でビジネスマンとして生きていくために必須だと思います。

また個人的には「SIerからウェブ系」などキャリアのステップを限定することなく、

「SIerからメーカーや商社のIT部門へのキャリアチェンジ」

なども検討するのが良いと考えています。