新卒で入社した会社の研修が終わり、現場に配属された日に課長との面談があった。
僕のメンターのような人と課長と3人での面談で、僕はたしかにこう言った。
「会社に入れたことに心から感謝しています。
まだ何も専門性が身に付いていない自分を雇っていただけたことが本当にありがたいと思っています。
会社で勉強させてもらっているようなものなので、給料はいりません。
自分ができる限りなんでもやります。
一生懸命働いて、一日でも早く戦力になれるように頑張ります」
実力はないが、意識だけは天よりも高かった。
「世に生を得るは事を成すにあり」
就職内定時代に司馬遼太郎の『竜馬がゆく』を読み、極限まで意識を高めた僕は、仕事こそが人生だと考えていた。
「男なら、たとえ溝の中でも前のめりで死ね」
と本気で考え、ハードワークの末に倒れるなら本望とまで考えていた。
そのハードワーク信仰はもはや宗教とも言えるものだった。
* *
サイバーエージェントの藤田晋さんがあるブログ記事を引用し、ツイートしていた。
うちの会社で何年も語り継がれる名文
— 藤田晋 (@susumu_fujita) 2019年1月6日
naito「初日に暇な人」 https://t.co/vYFG4YYE4c
大学時代の僕が喜びそうな、天に届くほど意識が高い記事である。
要約するとこんな感じになる。
「正月明けの初日に暇な人は、自分で仕事を作っていない人。
仕事は誰かから与えられるものと思っている人は、正月明けの初日はあまり仕事がない。
日頃から自分で仕事を作っている人は、『初日』という大事な日の仕事は前日までに必ず準備している。
暇な人は反省した方がいい。
仕事は自分で作らないと、その下にいる人もみんなが受け身で仕事をするようになる。
こうなったら組織は終わりだ」
* *
「仕事は与えられると思うな」
「仕事は自分で作り出すものだ」
気持ち良いほど正しい仕事論だと思う。
自主的に仕事を作り、会社に貢献し、組織を成長させる。
立派な会社員として自ら仕事を作り出し、残業もいとわず会社のため、社会のために走り続ける。
こういう考え方は圧倒的に正しいし、僕が描いていた理想の姿でもある。
このようなハードワークはたしかにリクルート的な「圧倒的成長」の源にもなるのだが、ほんの少しだけ冷静になって自分を見つめ直す時間があってもいいのではないだろうか。
「仕事を通じて圧倒的成長」
とか、
「仕事を作り出して世界を変える」
という完璧に正しく、そして美しく心に響く正論を前にすると、僕たちはどうしても思考停止してしまいがちだ。
なぜならそれが正しいとずっと言い聞かされて生きてきたからだ。
が、ほんの少しだけ正論から距離を置いて、
「自分がどんな風にお金を稼いで生きていきたいか」
を考えてみてほしい。
以前の記事で「キャッシュフロー・クワドラント」の話をまとめた。
関連記事:金持ち父さんの「キャッシュフロー・クワドラント」の考え方がめちゃくちゃ面白い
「キャッシュフロー・クワドラント」はその人がどうやってお金を生み出しているかを以下の4つに分類する。
- E(Employee):従業員
- S(Self-employed):自営業者
- B(Business owner):ビジネスオーナー
- I(Investor):投資家
どのクワドラントで頑張っても豊かにはなれるが、「E(従業員)」と「S(自営業者)」は合法的な節税が難しく、また成功すればするほど忙しくなって時間がなくなっていく。
また基本的に、「E(従業員)」は「B(ビジネスオーナー)」を豊かにするために働いていたり、住宅ローンを支払い銀行を豊かにするために働いていることもあり、最もラットレースから抜けにくい場所でもある。
それで、だ。
「自分で仕事を作り出し、ひたすらに会社で働く」
というのは、基本的に以下の3つのパターンの生き方において正しい。
(1)Eクワドラントでひたすら自分の能力を高め、出世を目指したり市場価値を上げる
(2)Eクワドラントでひたすら自分の能力を高め、自営業として独立する
(3)Eクワドラントでひたすら能力を高め、「専門性×ビジネス」でビジネスモデルを構築して自分のビジネスを作る
何も考えずにがむしゃらに働くことだけが正解ではない。
僕たちは「とにかく働け。一生懸命やれば報われる」と考えてしまいがちだが、
まずは自分がどんな人生を生きていきたいか、という価値観を見つめ直す時間も必要だ。
さらに言うならば、上に書いたような「E(従業員」のクワドラントで「がむしゃらにやる」が報われるためには、会社のベクトルと自分のベクトルが同じ方向を向いている必要がある。
具体的には、
- 会社で求められている能力と、自分が貢献できる能力
- 会社で身に付けられる能力と、会社で身に付けたい能力
- 会社の文化と、自分の性格
が合致している必要がある。
そうでなければがむしゃらに頑張っても労多くして益少なく、頑張っても報われない結果になってしまう可能性が高い。
「置かれた場所で咲きなさい」
などとよく言われがちだが、置かれた場所の土では花が咲かない植物もあるのだ。
だから僕たちは一度冷静になって、「自分が望む生き方」や「自分の嗜好」を見つめ直し、それが「がむしゃらに働く生き方」と合致しているかを考えなければならない。
E(従業員)をほどほどにやりながら軍資金を貯めて、コツコツと自分のビジネスと組み立てていく生き方だってあるのだ。
「従業員としての時間」と「ビジネスの構築」を並行で走らせるためには、ある程度プライベートに余力がなければならず、
「終電まで毎日働き詰め」が常識となっている文化の会社とは相容れないだろう。
人間の生き方に正解はない。
だからこそ、意識の高い人や成功した人が言いがちな、
「とにかく働け」
「会社に貢献せよ」
「脇目もふらず駆け抜け 青春って奴を捧げよ」
「ふいに理由もなく恐くなる wow LONELY BLUES」
という言葉を盲目的に信じるのではなく、自分が望む生き方を考え、戦略を練り、淡々と歩を進めていくのが大切だ。
GLAY 『a Boy 〜ずっと忘れない〜』
最後に僕個人の思いとしては、
「世に生を得るは事を成すにあり」
という生き方は大好きである。
仕事こそが人生だ。
これはもはや僕の中に深く根付いた宗教だ。
しかしそれは「がむしゃらに会社で働くこと」と必ずしもイコールではなく、その舞台は自分で作っていきたいと密かに志している。
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