会社員は転勤を拒否できるのか?判例を調べてみた!



会社員には転勤がつきものだと思います。

僕の友人に電力会社に勤めている男がいるのですが、彼は最近転勤を命じられ、地方の僻地に飛ばされていました。

コンビニも近くにない場所だそうで、「不便だが仕方ない」と哀しげに笑っていました。

電力会社に限らず、日本企業ではジョブ・ローテーションの一環で転勤させられる場合が多いでしょう。

特に大企業会社員の多くの方は、一度は「転勤」を意識したことがあるのではないでしょうか。


さて、ツイッターではたびたび、「転勤の是非」について議論になります。





転勤の是非は様々ですが、「ジョブ・ローテーション」の名のもとに、合理性も必要性も感じられぬまま、知らない土地に飛ばされることについては抵抗がある人が多いようです。

当然ですよね。

抵抗を感じているのはツイッター民だけではありません。

判例を覗くと、同じように転勤に抵抗を感じ、会社と闘った男たちがいました。

彼らの闘いの歴史を見てみましょう。

転勤を拒否できなかった判例

大阪堺市で共働きの妻と2歳の子供、そして71歳の母親と一緒に住んでいたとある男性社員が、神戸営業所から名古屋営業所に転勤を命じられました。

男は勇敢だったのでしょう。


「俺は転勤などしたくない!ふざけるなァ!」


と、転勤を拒否したら、懲戒解雇されました。


男は会社を訴えました。

「おかしいやないか」

と。

しかしそんな男の訴えも虚しく、裁判所は

「単身赴任に伴う家庭生活上の不利益に関しては、通常甘受すべき程度である」

と判断し、男の主張を退けました(東亜ペイント事件(昭和61年7月14日最高裁)


別の判例もあります。

ある夫婦は同じ会社で働いていたのですが、夫にだけ東京営業所から名古屋営業所への転勤が命じられました。

愛する妻と離れ離れになるなんて我慢できない!

それに...、それに、俺には可愛い3人の子供がいるんだ。

転勤命令なんて出されたら、単身赴任するしかないじゃないか!

これは「夫婦が協力して子供を養育する権利、そして子供が良心から養育を受ける権利」を侵害しているんじゃないか!?

ブチ切れた男は会社を訴えました。


それに対して裁判所は

「会社は別居手当も払うって言ってるし、それなりに配慮してるじゃないか。

この転勤命令は通常甘受すべき程度を著しく超えるものとは言えない!」

と判断し、男の訴えを退けました(帝国臓器製薬(単身赴任)事件


これらの判例からもわかるように、正社員で採用されて、就業規則に


「業務上の必要がある場合には転勤を命じることがある」


のような「転勤条項」が含まれていて、それに同意した場合、基本的に転勤命令は拒否できないということです。

裁判してもたぶん負けます。


このように、転勤に関しては基本的に会社の命令に従わなければならない前提には「日本型の終身雇用システム」があります。

「会社は原則として、入社から定年まで従業員の面倒を見て、途中で解雇しないでくださいね。

その代わりに、人事権の行使は広く認めますよ」

というのが、日本の司法のスタンスです。


ただし、転勤命令を拒否できる場合もあります。

その命令が「権利の濫用」であるときです。

  • 業務上の必要性が存在しない場合
  • 不当な動機・目的からなされている場合
  • 労働者が通常甘受すべき範囲を超える場合


などは転勤命令が無効とされる場合があります。

半沢直樹が嫌がらせで北国に転勤させられていたり、『沈まぬ太陽』の主人公がカラチ、テヘラン、ナイロビに足掛け8年にわたって転勤命令を下され続けたりしていましたが、これはどう考えても無効でしょう。

ドラマや小説を読むたびに思うのですが、なんでこういう人は会社を辞めたり、理不尽な輩を法で殴ったりしないのでしょう。

倍返しするなら社内で復讐するよりも、司法に訴えた方がよっぽどいいと思うのですが。


まとめになりますが、基本的に会社員は転勤命令を拒否できません。

よっぽど理不尽な命令であったり、病気の家族を療養しているなどの理由がない限りは、命令されたら従う必要があります。

訴えてもたぶん負けます。


なので、本当に転勤が絶対嫌だという人はさっさと辞めて転職した方がいいです。

そのためには、「一生会社に面倒を見てもらう」みたいなスタンスは捨てて、自分の市場価値を高める努力を続けなければいけません。

結局、「いつでも会社を辞められる人」にならなければ、いつまでも転勤や異動のリスクはついて回ってくるのです。


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<参考にした本>