『一度読んだら絶対に忘れない 世界史の教科書』はなぜわかりやすいのか



教養として世界史をちゃんと学んでみようと思い立ち、『一度読んだら絶対に忘れない 世界史の教科書』を読んでいた。

読みながらそのわかりやすさに感動し、学習意欲が大いに刺激された。

私は大学受験で世界史を選択しておらず、教科書的なものを真面目に読むのは高校1年生以来である。

10年、いや15年ぶりに読む教科書だ。
燃えないわけがない。

読み進めるうちに私の受験勉強脳が呼び起こされてきて、緑色のペンで単語を塗り潰してやろうかと思った。

まぁ、そこまで受験っぽくしなくても、世界史をもっと細々と、受験レベルまでちゃんと勉強しようと考え始めてしまった。

読者の方にはよくよく注意してもらいたいのだが、何を勉強するにしても、目的を見失ってはいけない。

どこの世界に大人になってから突然「世界史を受験レベルまで極めよう」などと思い立つ男がいようか。

おっさん、お前は一体何を受験するつもりなのか。

世界の歴史を振り返っても稀な阿呆である。


しかし私は一度やってみようと思ったらとりあえずやらなければ気が済まない。

書籍代は些細なものだ。
とにかく世界史をもう少し細かく学んでみよう。

その経験は今後ブロガーとして、何かを書く際に引用できる知識の引き出しにもなるはずだ。

というわけで、わざわざ本屋に行って購入したのが『青木裕司 世界史B講義の実況中継』であった。

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世界史の受験勉強

実況中継シリーズは私が受験生だった頃、「とにかくわかりやすい参考書」として持て囃され、「受験参考書の革命」と言われていた。

無味乾燥な参考書ばかりだった受験界に彗星のように現れた「実況中継」シリーズ。

講義調で“軽いノリ”の本は受験生に歓迎され、人気となった。

同じようなスタンスで昔流行った本に『細野真宏の本当によくわかる』シリーズなどがある。

細野真宏の確率が本当によくわかる本 (細野真宏の数学が よくわかる本)

細野真宏の確率が本当によくわかる本 (細野真宏の数学が よくわかる本)


細野先生は最近活動がめっきり減ったためか、今ではあまり流行ってないのかもしれない。

本屋を眺めていると『鉄緑会』シリーズの本がドーンと平積みにされていて、なんだか妙な勢いを感じた。


余談が長くなったが、受験用の世界史の本を読むことで、『一度読んだら絶対に忘れない 世界史の教科書』のわかりやすさがより一層際立って感じられた、という話をしたかったのだ。

「一度読んだら絶対に忘れない世界史の教科書」がわかりやすい理由

さて、他の世界史の本を読んでみたら一層、『一度読んだら絶対に忘れない 世界史の教科書』のわかりやすさが身に沁みた。

なぜそれほどまで『一度読んだら絶対に忘れない』がわかりやすかったのかを考えるために、このような記事を書いている。

もちろん実況中継シリーズが「わかりづらい」わけではない。

『一度読んだら絶対に忘れない』が極端にわかりやすいだけだ。

特に世界史初学者にとっての第一歩にこれほど適した本は無さそうにも思える。

なぜわかりやすいか。

やはり地域ごとにある程度まとまった単位で歴史の流れを紹介してくれている点が大きいだろう。

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ヨーロッパから現代までを数珠つなぎにした『絶対に忘れない』に対して、教科書的な書き方だと下の図のように記述があっちにいったりこっちに行ったりして、読んでいるうちに混乱してくる。

ある程度まとめて説明してくれる『絶対に忘れない』の方が、頭に残りやすく、理解しやすい。

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また、『絶対に忘れない』の冒頭では「主役をできるだけ固定している点」が工夫として挙げられているのだが、『絶対に忘れない』を読んだときには「主役を固定する利点」がよくわからなかった。

別の世界史の本を読んで初めて、

「主役が固定されていると、『今はどこの国のどんな話をしているのか』で迷わずに済む」

ことに気づいた。

世界史は世界中の様々な歴史を辿っていく科目なので、少し油断すると「今、どこの地域の話をしているのか」がよくわからなくなる。

ある程度、「このあたりの話をしているんだな」とわかっている方が読み手が楽できるのだ。


受験界では、世界史は日本史に比べて難易度が高いと言われている。

似たようなカタカナが多くて人名が覚えづらいのと、様々な地域の歴史を絡み合わせて理解しながら記憶しなければならないからだ。

『絶対に忘れない』は、そんな世界史の混乱しやすい部分をできる限り取り除く努力をしているように感じた。

ただし、歴史の流れをわかりやすくしている分、説明の粒度は教科書より粗くざっくりしたものになっている。
受験勉強に『絶対に忘れない』だけで臨むのは不可能だろう。

とはいえ、大人が教養として世界史を学ぶにはこれくらいがちょうどいいのかもしれない。

ページは進む。されど歴史は進まず

『絶対に忘れない』が頭に残りやすいもう一つの理由は、時間軸が後ろから前にある程度一貫して進んでいく点も挙げられるだろう。

教科書的な順序で世界史を学ぶと、ページは前に進んでいるにも関わらず、歴史が戻ることがたくさんある。

ある地域の歴史を紀元前から紀元後まで語ったと思ったら、急に別の地方の歴史を紀元前から語り始めるようなイメージだ。

教科書方式が悪いとは言わない。

でも初めて世界史を学ぶ僕のような人間にとっては、『一度読んだら絶対に忘れない 世界史の教科書』のように地域をまとめて、歴史の流れに沿いながら話を進めていってもらえた方がわかりやすい。

対象の地域があちこちに飛ぶだけでも混乱するのに、時間軸まで前に飛んだり後ろに飛んだりすると、何がなんだかわからなくなって混乱するからだ。

世界史を一通り勉強して、それぞれの地域の歴史の流れがきちんと頭に入っている人にとっては理解は容易なのだろう。

しかしまだ“歴史の軸”が脳内に構築できていない初学者にとっては、各地域ごとの年表を頭の中で再構築する労力は大きく、大枠の理解が妨げられてしまう。

『一度読んだら絶対に忘れない 世界史の教科書』の場合は地域別にある程度まとまった縦の流れを時系列に説明してくれるため、自然に理解しやすい。時間の流れがページとともに後ろから前に進んでいった方が人間にとって自然だからだ。

また、文化の話や政治の話、戦争の話やコラムみたいな余談に話が飛んでいないところもいい。
歴史の流れを理解している途中で突然「文化」に話を飛ばされると、意識が途切れてしまうからだ。

「一度読んだら絶対に忘れない」はさすがにウソ

『一度読んだら絶対に忘れない 世界史の教科書』は本当にわかりやすく、素晴らしい教科書だと思う。

それでも「一度読んだら忘れない」というのは嘘である。
一度読んだだけで内容を覚えていられる人間はほとんどいない。

おそらく通読一度目でざっくり流れが見えてきて、
二度目でやっと人物の名前が頭に入ってきて、
三度目で点と点がつながる感覚が掴めてきて、
五度繰り返したくらいでやっと、教科書の内容が頭の中で楽に再生できるようになるのではないだろうか。


「一度読んだら忘れない」

というのは、タイトルを扇動的にして売上を伸ばすための方便に過ぎない。

「初学者でも1回読めば世界史の大雑把な流れを掴める」

であれば多くの人にとって正しいタイトルとなるだろう。

「大雑把」と書いたが、大人が歴史のウンチクを語るには十分と言えるくらいの内容は盛り込まれている。

センター試験で言うと5〜6割くらいだろうか。

それぞれの説明で、わかりづらい用語をきちんと説明してくれていたり、「なぜその事件が起こったか」もちゃんと省略せずに説明してくれているところも良い。

「絶対に忘れない」を基礎にして他の本を読むのが良いのでは

これまで『一度読んだら絶対に忘れない 世界史の教科書』の良い部分を色々と褒めてきたけれど、この本にも弱点はある。

『一度読んだら〜』では読者に全体の流れを理解させるためにあえて年号を使っていない。
また細かい世界史用語に触れることなく、かなりざっくりとした記述の教科書になっている。

つまり、受験で点を取るためには『一度読んだら絶対に忘れない 世界史の教科書』だけでは足りないということだ。

おそらく『一度読んだら忘れない』をマスターしても

「世界史の流れは理解できたけど、センター試験では50点くらいしか取れない」

みたいな、受験生には残念な結果となるだろう。

社会では9割くらいの得点は確保したいところだ。

大人が世界史をざっくり学ぶにはこれほど適した教科書はないが、受験レベルまで世界史知識を引き上げるためには、他の本を読んで知識を補充したり、志望校の問題集をこなす必要がある。

受験脳を刺激された私はとりあえず、『実況中継』を一通り読み通してみるつもりである。


ところでなぜ私は受験の話をしているんだ?



最近では「世界史の学び直し」が密かにブームになっているようで、本屋に行くと『サピエンス全史』などを始めとした世界史本が並んでいる。


本屋を歩けば、『銃・病原菌・鉄』や『マクニール世界史』などの名著やハラリ教授の『ホモ・デウス』など、「歴史から未来を考える」きっかけとなりそうな良書がたくさん見つかる。

これらの歴史本を少しずつ、読んでいくつもりだ。

学んだ歴史の知識をすぐにビジネスに活かすのは難しいかもしれないが、歴史の流れを理解することで、私は世界をもっと違う視点から咀嚼することができるようになるかもしれない。

何かを学ぶとは、世界の解像度を上げることでもあるのだ。

そして何より、歴史は面白い。

事実は小説よりも奇なりというが、今振り返ると笑ってしまうような珍事や今読んでも驚くようなエピソードが歴史の中に散りばめられている。

歴史を楽しみながら、何か面白いエピソードがあればブログで紹介していくつもりだ。

一度読んだら絶対に忘れない世界史の教科書 公立高校教師YouTuberが書いた

一度読んだら絶対に忘れない世界史の教科書 公立高校教師YouTuberが書いた