本多静六にお金持ちになる方法を学ぶ



本多静六は慶応2年(1866年)生まれの大学教授である。
「4分の1天引き貯金」で巨額の富を築き、死ぬまでに370冊以上の著書を発表した。

本多は「日本の公園の父」とも呼ばれ、数多くの公園の設計を担当した。
有楽町にある日比谷公園も本多の設計である。


本多は25歳から蓄財を始め、60歳の定年時に財産のほとんど全てを社会事業に寄付した。
彼が生涯で築いた資産は現在の価値で100億円を越える。


前澤友作さんが2019年の正月に1億円を配ったのは記憶に新しいが、本多静六は現代のTHE★金持ち・前澤友作並の資産を「誰にでもできる(あるいはできそうな)やり方」で築き上げたのだ。


本多は25歳で東京大学の助教授になったときに人生計画を定めた。

「40までは勤倹貯蓄、生活安定の基礎を築き、60までは専心究学、70まではお礼奉公、70からは山紫水明の温泉郷で晴耕雨読の楽居」

「毎日1頁以上の文章執筆と、月給4分の1の天引き貯金」

本多の4分の1天引き貯金の威力は凄まじかった。

本多が39歳のときに大学に1千円を寄附したのだが、その寄附額が「分不相応に多すぎる」と周囲の反感を買い、大学を追い出されそうになった。

明治時代の1円は現在の5千〜2万円程度だったそうなので、現代だと

「39歳の大学教授が大学に2000万寄附したら、『何か不正しとるやろ、お前』と怒られて辞職させられそうになった」

というところだろう。

辞職させようと怒鳴り込んできた同僚に本多家の家計簿を見せ、4分の1天引き貯金の有益さを説くことで事なきを得たそうだが、同じような給料をもらっている同僚が「ありえない」と驚くほどの資産を39歳で作っていたのが興味深い。

同じような給料をもらっていても、その使い方、運用の仕方、貯め方で手元に残る資産は全く異なるのだ。

年収の高さばかりが注目されがちだが、どのようにお金を使い、どうお金を貯めて、どう運用しているのかにも着目すべきだろう。

財産を作る方法

あらゆる通常収入はそれが入ってきたときに天引きで4分の1を貯金してしまう。

さらに臨時収入は全部貯金する。

方程式にすると、

貯金 = 通常収入 × 1/4 + 臨時収入 × 10/10

ということになる。

月収は1/4を天引き貯金して、ボーナスや副業のお金は全部貯金につぎ込むのだ。
そして貯金からの利子の3/4は生活費に回すこととしている。

『明治期における銀行の成立について』によると、本多が生きていた時代の銀行の利子は5〜10%程度あったようなので、金利がほぼ0%の現代で「貯金すると利子がつくから生活が楽になる」とは言えない。

「収入の1/4と臨時収入の全てを貯金する」

は現代でも十分に通用する戦略だが、それに加えて、後述する

「好景気のときは貯蓄、不景気のときには投資」

という本多式の投資法を駆使し、さらには空き時間で副業を行うくらいでないと、本多のような「安心・堅実・確実な方法」で資産を築くのは難しいように思える。

本多が生きていた時代は物価の上昇率も現在と比較にならないほど高かったはずなので、「天引き貯金」だけでなく、投資に成功したことも資産を築き上げた要因としては大きいだろう。

それよりも何よりも、お金を貯めるならやはり「天引き」である。
私自身も天引きを始めてからは貯金ができるようになった。

使える場所にお金があると、なんだかんだで使ってしまう。

入った瞬間に天引きして、「使えない口座」に移してしまうのがいい。
私の場合は天引きで投資信託を購入するようにしていた。

自動的に天引き貯金するよう設定すると、不思議と「残ったお金」で生活するようになる。

「自分の意志で投資する」
「自分の意志で口座を移し替える」

のではなく、「勝手に天引き」されるように設定するのがポイントだ。

節約しなさい

本多清六は、「とにかく見栄を張るな、貯金せよ」と強調している。
節約の大切さは『私の財産告白』の中で何度も繰り返される。

「貯金生活をつづけていく上に、一番のさわりになるものは虚栄心である」

と本多はいう。

見栄のために女後輩に酒を奢ってきた私には耳が痛い話だ。
酒を奢っても感謝などされないし、相手の記憶にも残っていないし、関係も続かなかったというのに。


世の中の不正の多くは贅沢な生活に原因があるという。

「実際今日の世間でも、いろいろな不正を犯すものは、いずれもその多くが生活の奢りからきている。
奢りのために金が不足し、借金が殖え、とどのつまりが収賄、詐欺、横領、使い込みといったことに陥っている」

貧すれば鈍するというが、鈍する原因は虚栄心で無駄遣いしたり、分不相応な出費をやめないからだ。
節約する人に貧しい人はいない。

出費が大きくなる原因の多くは虚栄心で、SNSは人の虚栄心を加速させているように見える。
人と競うのをやめ、人に見栄を張るのをやめ、内なる自分の喜びを追求することで、少なくとも蓄財は進みそうだ。

節約する人に貧しい人はいない。 (幻冬舎単行本)

節約する人に貧しい人はいない。 (幻冬舎単行本)

本多静六の投資法

本多静六は貯金で資産を貯めてから投資で資産を増やした。

分散投資でかなり堅実な投資を行ってきたと思われる。

本多は投資について以下のように語る。

「投資の第一条件は安全確実である。
しかしながら、絶対安全をのみ期していては、いかなる投資にも手も足も出ない。

だから、絶対安全から比較的安全、というところまで歩み寄らねばならぬ。
そうして、その歩み寄りの距離だけを、細心の注意と、機敏な実行で埋め合わさなければならぬ」

現代に照らし合わせて考えるならば、仮想通貨や値動きの激しい銘柄で一攫千金を狙うことなく、インデックス投資などで地道にお金を増やせ、ということだろう。

本多は貯金が貯まったら預金増加の信用を利用して、銀行から貸し出しを受けることを推奨している。
レバレッジをかけた投資を推奨しているのは意外だった。


本多は

「好景気時代には勤倹貯蓄を、不景気時代には思い切った投資を、時機を逸せず巧みに繰り返せ」

強調する。

これは現代にも当てはまる投資の鉄則だろう。
好景気のときに貯金して種銭を貯めて、暴落したタイミングで投資に走る。

2000年代前半にひたすら貯金に励み、リーマンショックのタイミングで投資を始めた人がいたならば、その人は今頃、働かなくてもいいくらいの資産が築けているはずだ。

暴落を待って、そこから投資を始めることができるのは、個人投資家の特権である。


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経済的独立こそが大事

本多静六のお金に関する哲学は実直かつ堅実である。

節約が大事というと、いかにもケチくさい感じがするが、経済の独立なくして精神の独立もないと本多は説く。
どんなに節約しても、ちゃんと働かなければ意味がない、ともいう。


「いわゆる世俗的な成功の第一義は、まずなんとしても、経済生活の独立にある。
これなくしては何事の成功もおぼつかなく、またどんな成功も本当の成功とは世間でみてくれない。

ところで、この人生に最も大切な経済生活の独立には、何職、何業にかかわらず、積極的に働いて消極的に節約耐乏するよりほかに途はない。

いくら働いても節約しなければダメ、それはちょうどザルに水をもるようなものだ。

またいくら節約しても、節約を通り越して吝嗇にすらしても、働かなければダメ。それはちょうど徳利の中の水を守るようなもので、ついには腐って臭気を発するばかりだ」

こうやって見ると、本多はものすごく当たり前のことを強調しているのがわかる。


仕事に没頭しなさい。
一生懸命勉強しなさい。
貯金しなさい。
不景気のときに貯金を投資に回しなさい。


こういう当たり前のことを当たり前にやるのは実は大変難しい。
そして当たり前のことを35年以上、愚直に続けられたからこそ、本多は莫大な富を築き上げることができたのだ。

「あり金は全部使え」に流されるな

最近では「あり金は全部使え」だとか、「金を使って経験に投資した方が後で金持ちになれる」みたいな甘言を流す成功者がたくさんいる。

こういう成功者の景気の良い話は、無駄遣いの都合の良い言い訳になる。

成功者のポジショントークに踊らされることなく、一度冷静になって、その出費が本当に必要なものなのかを考えた方がいい。

私の人生を振り返ると、お金を使って得られる経験値よりもお金を稼いで得られる経験値の方が大きく、後々まで残っている思い出は意外とお金がかかっていないものが多い。

職業の道楽化こそが大事

「人生の最大幸福は職業の道楽化にある」と本多静六は言う。

「富も名誉も美衣美食も、職業道楽の愉快さには比すべくもない。

道楽化を言い換えて、芸術家、趣味化、娯楽化、遊戯化、スポーツ化、もしくは享楽化等、それはなんと呼んでもよろしい。

すべての人が、おのおのその職業、その仕事に、全身全力を打ち込んでかかり、日々のつとめが面白くてたまらぬというところまでくれば、それが立派な職業の道楽化である」

そして職業を道楽化するための方法はただ一つ、勉強にあるという。
自己の職業、自己の志向を天職と確信して、迷わず、疑わず、一意専心努力することで、早晩必ずその仕事に面白みが生まれてくるものである。

仕事が楽しくないと貯蓄も難しい

本多静六の貯蓄法は至極真っ当で、普通の人でもちゃんと実践すれば誰でもある程度の資産は築けるようにも思えた。
しかしながら、実際問題、月収の4分の1そしてボーナスの全てを貯金して生活するならば、贅沢な賃貸には住めないし、女の子に食事を奢ってホテルに連れ込むなんて真似はできない。

そんなことをしていたらあっという間に破産してしまう。

4分の1天引き貯金で資産を築くためには、「若い時代の金がかかる遊び」を極端に我慢しなければならない。

そのためにはお金がかからないように遊び方を工夫するのもいいが、何よりも

「仕事が楽しくて楽しくて仕方がない」

状態にしておくのが一番だろう。

どんな遊びよりも仕事しているのが楽しい。
だから遊びに金を使うこともなく、自分の時間を全て仕事に費やし、その分お金が入ってくる...みたいな状態に身を置かないと、天引き貯金をずっと続けるのは難しい。

私たちは仕事でストレスが溜まれば溜まるほど、散財してストレスを発散する傾向がある。

仕事が楽しくてストレスを溜めないのは理想的だが、もしストレスが溜まってしまったとしても、飲み歩いて散財するのではなく、バスケやサッカーのようなスポーツで発散するとお金が貯まりやすい。

自分のこれまでの経験から「女遊びが趣味の人は絶対にお金が貯まらない」ということだけは断言できる。
誰かと飲みに行くのが一番お金がかかるからだ。

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私の財産告白 (実業之日本社文庫)

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