「下町ロケット」が好調です。
第三話の視聴率は14.7%で、TVerやYoutubeで視聴する人もいることを考えると、多くの人が「下町ロケット」を楽しんでいるのではないでしょうか。
今回のドラマ「下町ロケット」は原作でいうと「ゴースト」と「ヤタガラス」を元にしたものです。
前作では「(ロケットにも利用される)宇宙品質のバルブシステムを作り上げる」ことをテーマにしていました。
しかしバルブシステム納入先である帝国重工の業績悪化により、ロケット事業に暗雲が立ち込めてきてしまいます。
佃製作所にとっては「ロケット品質」は生命線。
その看板を外さなくてはいけなくなるような大ピンチです。
そんなピンチを切り抜けるために社長の佃航平が閃いたのが、「宇宙から大地へ」
今作の「下町ロケット」のチャレンジは「農業器具のトランスミッション」なのです。
前作同様に毎回嫌な敵が現れ、数々の妨害工作や嫌がらせを受けます。
ピンチに陥りながらも決して屈することなく、不屈の闘志で立ち向かう佃製作所の社員たち。
見るたび心が打たれます。
僕はいい年してドラマを見ては感動して泣いてしまうので、当然「下町ロケット」を見ると毎回号泣しているのですが、ちょっと待てよと。
冷静に考えたら、「下町ロケット」めちゃくちゃブラックじゃね?
と思わずにはいられなかったので、今回の「下町ロケット」でブラックさを感じたシーンをまとめてみました。
娘に進捗を聞くな!
佃航平の娘、佃利菜は今作からは帝国重工 宇宙航空部の社員として働いています。
帝国重工は部品の内製化(自社で作ること)を企むも、やはり佃製作所の部品がないとテストをクリアできないことが判明しました。
スケジュールが押している中、無茶を言ってテストをクリアする品質のバルブを佃製作所に依頼します。
帝国重工は完全に「佃待ち」の状態です。
佃製作所の部品はまだか。
佃製作所が間に合わなかったら計画が潰れてしまう。
そんな中、帝国重工の偉そうな人は、なんと!
...娘を詰め始めるのです。
「お父さんの会社はどうなっているんだ!」
と皆で詰め寄る。
そのシーンを見て僕は思いました。
いや、娘を詰めるなよ...
と。
そもそも娘は帝国重工の社員であり、帝国重工のメンバーと一緒に働く仲間なはずです。
進捗を詰めるなら娘ではなく、佃製作所の社長に電話でもメールでもするべきなんです。
なぜ娘を罵倒して、佃製作所の作業の進捗の責任を負わせようとするのか全く意味がわかりません。
こんな上司や仲間とは絶対に一緒に働きたくないと思ってしまいました。
疲弊しまくる佃製作所社員
佃製作所の社員は優秀です。
帝国重工の無茶振りに応えるため、夜を徹して作業します。
お客様の期待に応えるため。
宇宙品質を守るため。
佃製作所の名誉のため。
社員は必死に働いて......
結果、疲弊した姿がこれです。
死にそうじゃねぇか......。
僕もずいぶんと社会人生活も長くなって、疲弊せざるを得ないような状況を経験したことはありますが、それでも佃製作所の社員ほど疲弊した会社員は見たことがありません。
青ざめた顔で床に座り込むまで働く佃製作所の社員を見て、
これは確実に労働基準法を守ってない会社だな
と確信しました。
そんな状況に社員は決して疑問を抱くことなく、会社のために滅私の精神で懸命に働きます。
ドラマとして見ると胸が熱くなる最高の展開ですが、自分が働くとなると実際はキツイのではないでしょうか。
というのも、佃製作所ではどうも給料の話はタブー視されている節があり、結果を残しても給料が上がるような描写はありません。
あくまで金や出世ではなく、「夢のために」働いているのです。
「夢」という言葉、何か思い出しませんか?
そう、ブラック企業の経営者の口癖です。
ブラック企業の多くは「夢」とか「成長」を報酬として、給料は出さずに社員を馬車馬のように働かせます。
もちろん佃製作所の佃航平は全くブラックな雰囲気は全くなく、人情に厚く、人を大切にする人間です。
でもブラック企業の経営者も本人は問題を自覚していないのかもしれません。
「夢を追いかける会社」と「ブラック企業」はどうしても隣り合わせになりがちなのです。
関連記事:会社の役員に出世のコツを聞いてみた
論理よりも政治の世界
帝国重工のエース社員だった島津裕はひたむきに「良い製品」を追い求める技術者でした。
そんな島津はあるプロジェクトで、帝国重工の従来の部品を使うよりも別の選択肢を選んだほうが、より良い性能が出ることを発表しました。
そのときの上司の反応がこれです。
「何を言ってんだ、現状よりいいものがあるはずない」
島津が根拠を示しながら説明しても、一顧だにされません。
帝国重工にとっては「現状維持」が最も重要で、新たなチャレンジなど求めてはいないのです。
ショックを受ける島津の姿がこちらです。
この後、マイクを引ったくるように取り上げられ、会議は幕を閉じます。
島津は「もっと良いものを作りたい」という一心で様々な提案を続けますが、その案が採用されることはありませんでした。
やがて帝国重工の窓際部署に追いやられ、技術力を活かす機会すらも奪われてしまったのです。
こんな窓際で弁当を食ってるだけで給料が出るなんて、なんて素晴らしい会社なのだろうと思ってしまいそうですが、やはり若くて夢があってチャレンジ精神のある技術者にとっては耐えられない環境なのでしょう。
同じように窓際に飛ばされた伊丹大と共に、「ギヤゴースト」を立ち上げることになるのです。
悪役がすごい
「下町ロケット」に限らず、池井戸潤原作のドラマは悪役が光っています。
古坂大魔王さんが
「本気でムカついてくれた人もいて」
と語るくらい、マジでムカつく悪役が出てきます。
いやはや…ものすごい数のツイート数でした😓😓
— 古坂大魔王 (@kosaka_daimaou) 2018年10月28日
本気でムカついてくれた人もいて…下町ロケット…凄すぎます!!
前作から大ファンのこの世界に入れて…
緊張したぁ🙀🙀!! pic.twitter.com/1GPEFTx1uV
この弁護士も顔からして憎たらしい。
これは「半沢直樹」の大和田常務。
前作の小泉孝太郎も輝いていました。
名作には必ず、素晴らしい悪役がいます。
ハンターハンターの蟻の王メルエムやドラゴンボールのフリーザ。
幽遊白書の戸愚呂など、素晴らしいストーリーには必ず素晴らしい敵がいるのです。
池井戸ドラマの面白さは「最後に正義が勝つ」という勧善懲悪のわかりやすいストーリーで、視聴者を爽快な気分にさせてくれるところにあるのだと思っています。
会社がイエと呼ばれた時代
『下町ロケット』原作者の池井戸潤さんが三菱銀行に入行したのが1988年。
バブル崩壊前の「ジャパン・アズ・ナンバーワン」が信じられていた時代に会社員となったのです。
終身雇用・年功序列が当たり前だった時代を僕はよく知りませんが、当時の会社員にとって、会社は「イエ」のようなものだったと聞きます。
一度入った会社に大きな帰属意識を持ち、新卒で入社した企業に定年まで勤め続けることが当たり前と考えられていた時代ならば、
「会社の名誉は自分の名誉」
と考えるのも不思議ではありません。
今と比べて個人と会社はより密接につながっていて、「モーレツサラリーマン」として会社のために必死に働き、その代わりに会社は社員を守り、面倒を見て、年功序列で出世させる「イエ」を提供していたのでしょう。
そんな日本式雇用をどこか冷めた目で見て、ドライに会社に接する傾向があるのが、現代の日本会社員の特徴であるようにも思います(ベンチャーは別)
僕は日本式雇用が理想だとは思いませんが、「下町ロケット」の佃製作所のように、社員が会社の経営に当事者意識を持って、会社のために一丸となって働く姿は楽しそうだな、とも感じました。
今回の記事ではブラック企業ぶりに焦点を当てましたが、別の記事で佃製作所の社員のように「仕事に熱中する条件」について考えてみたいと思います。
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続きの記事:下町ロケットに学ぶ「仕事に夢中になる条件」